例会の記録(第32~95回)

<最終更新日>
2018年5月22日

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第32回例会(研究発表会)

日時:1997年5月24日(土) 13:30~17:30
場所: 関西ドイツ文化センター(京都)

<<内容>>

1.研究発表

発表者:竹尾 治一郎 氏(関西大学)

題目:哲学における意味論の位置


[要旨]


 デカルト以来の近代哲学では、認識論から始めるのが常であった。フレーゲは認識論を彼が「論理学」とよぶものによって置き換え、哲学の諸部門の間のハイエラーキーを変えることによって、哲学の全体的展望を変えてしまった。ただし彼が「論理学」とよんだものは、伝統的意味での論理学(演繹的推論の研究)とは違い、今日では「意味の理論」ないしは「言語の哲学」とよばれるものに近い。この発表では、(1)フレーゲの意味論についての一通りの説明の後、彼自身の意味論がどのような問題を残したかを述べ、(2)真理、意味、話者の意味などの概念についての、ダミット、クワイン、デイヴィドソン、グライスなど、比較的最近の哲学者たちによるフレーゲへの挑戦に手短に言及し、(3)フレーゲが与えたパースペクティヴのなかで、現代の哲学者たちの仕事――少なくとも、その言語哲学の部分――が行われている事情を明らかにしたい。


2.報告

報告者:合田憲氏(姫路獨協大学)

題目:高等学校におけるドイツ語教育の現状


[要旨]


 日本のドイツ語教育は現在、大学(高専)から始められるのが一般的である。大学設置基準の大綱化以来、大学において語学、特に第2外国語の退潮が叫ばれている昨今であるが、全国では約120校の高等学校でドイツ語科目が設置されている。高等学校の現場は大学以上に深刻な状況にある。高等学校のドイツ語教育の現状と問題点を、およそ次のような項目に従って紹介してみたい。
1. 履修形態
2. 問題点(第2外国語として)
英語との関連
カリキュラム上の問題
大学入試と大学の受け入れ体制
教員の養成と配置(雇用)
その他(第1外国語)
3. 教員としての取り組み
4.今後の展望
5.その他


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第33回例会(研究発表会)

日時:1997年9月13日(土) 13:30~17:30
場所: 関西ドイツ文化センター(京都)

<<内容>>

1.研究発表

発表者:高田 博行 氏(大阪外国語大学)

題目:言語の「本来形」という思想と言語の現実
――17世紀後半における格変化を例にして――


[要旨]


 屈折素(Flexiv)は音節をなし明確に屈折変化を表示するべきである(つまり dem Baum ではなく dem Baume、des Tags ではなく des Tages、unsern Kindern ではなく unseren Kindern)という17世紀後半の文法家たちの思想は、同じ時期に言語の現実において格変化語尾の e 音が組織的に復旧されたプロセスと符合し、その点では言語の理論と言語の現実とが一致対応した。しかし他方では、強い変化ほど古典語に近くそれゆえ正しいという思想のために、文法家たちは der guter Mann, die gute Leute, gutes Weins, derer Maenner, die Buergere といった多重格変化(Polyflexion)のほうをどうしても優先させがちで、この点では単一屈折(Monoflexion)への傾向を明確にしていた当時の支配的な言語事実に反した。


2.シンポジウム「日本のドイツ語教育は滅びるか?」



報告者:西本 美彦 氏(京都大学)

題目:京都大学でのドイツ語教育の現状とその改善の取り組みについて


報告者:中村 直子 氏(大阪府立大学)

題目:工学部単位減に対する大阪府立大学の対応と現時点での成果


報告者:橋本 兼一 氏(同志社大学)

題目:同志社大学におけるドイツ語教育――現状・成果・課題――


[報告要旨]


 京都ドイツ語学研究会の1986年の第一回例会でドイツ語教育の危機についてのシンポジウム(自由討論「いま大学でドイツ語は必要か?」)が行われて、すでに十年余になる。その後1995年7月に「大綱化」を主眼とした大学設置基準の大幅な改訂が行われ、各大学では教養教育のカリキュラム編成やその実施体制に関わる改革が急速に進められた。その影響をもろに被った科目の一つはいわゆる「第二外国語」である。なかでも従来からほとんどの大学で履修されてきたドイツ語の衰退ぶりはまさに劇的であると言ってもよい。
 本シンポジウムでは高等教育における第二外国語の一環としてのドイツ語に焦点を合わせながら、国立大学、公立大学、私立大学での外国語教育の現状とその改善のための取り組みについて報告を行う。それをもとに、国際化の進む現代社会において外国語教育はどのように位置づけられなければならないか、そして外国語教育の理念を、実践的かつ効果的に遂行するためには、なにが求められるかについての具体的提案を含んだディスカッションを行いたい。


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第34回例会(研究発表会)

日時:1997年12月20日(土) 13:30~17:30
場所:関西ドイツ文化センター(京都)

<<内容>>

シンポジウム「翻訳・通訳はどこまで可能か」

1.発表

発表者:藤涛 文子 氏(神戸大学)

題目:「マルチメディア翻訳」の特性と翻訳例


[要旨]

 翻訳行為によって起点テクストと等価な目標テクストを作り出すことは常に要請される一方で、現実にはそうした等価翻訳を困難にする要因がある。等価は内容等価・形式等価・動的等価(効果の一致)など様々なレベルに分けて考えられ、重要度により何を優先するか、何を犠牲にするかが決定される。映像・音響を含むいわゆる「マルチメディア翻訳」(K. Reiss*2)の場合、起点テクストに含まれる情報は、どのように取捨選択されるのであろうか。  報告では、「マルチメディア翻訳」の特性をまとめ、映画と歌の翻訳例を用いながら、目標テクストのコミュニケーション媒体が等価翻訳に加える制約について問題提起をしたい。



2.発表

発表者:松原 敬之 氏(フリーランスのドイツ語翻訳通訳者)

題目:同時通訳って、どんなもの?


[要旨]

 この発表の組立ては、以下の通り。
1.まず、私が自ら手がけた同時通訳の業務を数例紹介する。現在20名前後いると思われるドイツ語同時通訳者は、それぞれ仕事への関わり方が異なるので、私の場合はどうかということを知ってもらう為の紹介である。
2.先に紹介した業務をもとに、どのようなスキル、どのような準備が具体的に求められているかを、個々に説明していく。
3.先に説明したスキルを修得するために、どのような練習、どのような注意が必要かを述べる。
4.関西のドイツ語通訳者達の勉強会における活動を紹介する。
 東京では、自ら同時通訳業務をこなし、且つ同時通訳者の養成に尽力しているゲルマニストがおられ、ドイツ語通訳界のインフラは関西よりも充実している。関西でもそのようなインフラの整備を期待したい。


3.発表

発表者:飯田 仁 氏(ATR音声翻訳通信研究所)

題目:協調複合翻訳方式と多言語チャット・システム:Chat Translation System


[要旨]

 話し言葉の自動翻訳を目指すとき、その翻訳過程を説明するモデルが望まれます。しかし、構成的な説明原理に基づいた規則を網羅し、多様な言語表現を記述してモデルを作ることは難しいようです。自然な発話には、文法規則だけでは容易に捉え難い現象が多々現れていて、文法的に不完全であったり、語の組合せから句や文の意味を論理的に形成できないこともあります。また、疑問、命令、様相など、広義の意味での「ムード」に関する表現の取り扱いも不可避であります。
 このような状況のもと、「協調融合翻訳方式」と呼ぶ新しい翻訳方式を提案しました。この方式の位置づけや意味合いについて、機械または計算機を使った自動翻訳研究の歴史を振り返りつつ、説明いたします。この方式に基づいて、日本語と英韓独語の間の話し言葉翻訳実験システム"Chat Translation"を作っています。現在、このシステムは音声翻訳の各種実験に使われています。ビデオを使って音声翻訳の一端もご紹介いたします。



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第35回例会(研究発表会)

日時:1999年12月18日(土) 13:30~17:30
場所: 関西ドイツ文化センター(京都)

<<内容>>

シンポジウム「言語とアイデンティティー――ドイツ語圏とその周辺――」

1.研究発表

発表者:田村 建一 氏(愛知教育大)

題目:ルクセンブルクの言語事情――三言語併用が抱える問題――


[要旨]

 かつてドイツ語の一方言にすぎなかったルクセンブルク語は、十九世紀前半に国民国家ルクセンブルク大公国が成立するとともに国民のアイデンティティーの中核として機能しはじめ、以来さまざまな形で言語育成がなされた結果、使用領域を拡大し、1984年の言語法ではフランス語、ドイツ語とともに公用語の地位を与えられるまでに至った。この間二度にわたるドイツ軍の侵略を 経験したルクセンブルクでは、ドイツ語に対する感情は複雑である。行政文書や法律などはもっぱらフランス語が用いられ、フランス語の能力がステータスシンボルにもなる。
 ルクセンブルク語の公用語としての規定は現在のところ象徴的な意味しかもたず、公文書にルクセンブルク語が用いられることはないし、学校でのルクセンブルク語教育(小学校で週半時間)が拡大される様子もない。実際には、三言語併用は国民の言語生活、とりわけ学校教育に対して、かなりの負担を強いており、学歴と言語能力と社会階層が強い相関関係にあるルクセンブルクで、もし一部の民族主義的な立場からの主張を受け入れてこれ以上ルクセンブルク語を拡充するならば、その結果フランス語教育が犠牲となり、国民の間でフランス語能力にますます差がひらくことが懸念されるのである。母語の育成を抑えてでも、統合が進む EU の中で言語的に有利な自国の立場を今後とも保持しようとするルクセンブルクの政策は、小言語を母語とする国家の言語政策の一つのあり方を示すものであろう。


2.研究発表

発表者:進藤 修一 氏(大阪外国語大学)

題目:南ティロールの言語政策――歴史的考察――


[要旨]

 イタリア北部のトレンティーノ・アルト=アディージェ州はいわゆる「多言語地域」で、現在イタリア語・ドイツ語・ラディン語(レト=ロマン系)の三言語が使用されている。この地域は1918年の第一次大戦までは多民族国家ハプスブルク帝国領であった。大戦に敗北したハプスブルク帝国は解体され、南ティロール地域はサンジェルマン条約によりイタリアへ割譲されることとなる。 ここが現在の言語問題の出発点である。
 本報告ではまず1918年より現在に至るまでの南ティロールにおける言語問題の概観を行い、さらにそのなかから併合後約20年間の状況を主題として言語・言語政策・言語使用者のアイデンティティーについて考察したい。
 本報告が対象とする期間に、イタリアはさまざまな政策によって、併合され た南ティロールの「イタリア化」を推進する。その柱の一つとなったのが学校政策であった。ドイツ語教員の解雇・配転、ドイツ語での授業の禁止などが打ち出される。それに対抗してドイツ語系住民は個人授業の形で子弟のドイツ語 教育を行い、それはやがて組織化されてドイツ語「地下学校」ネットワークが構築されることとなる。さらに注目すべきは、在外ドイツ人協会やアンドレアス・ホーファー協会のようなドイツ・オーストリアの団体の存在である。これ らの団体は「在外ドイツ人」の支援に力を入れていたが、この南ティロールの地下学校教師養成コースも在外ドイツ人協会の支援を受け、ミュンヒェンでコースを設置していた。
 こうしてみると社会における言語の役割とはどういうものだったのかという 疑問が湧いてくる。言語は国家統合の柱として機能し得るのか。でなければ社会はどのようにして統合されているのか。人間は言語からのみアイデンティティーを獲得しているのか。言語と社会の関係がわれわれに突きつけている問 題はあまりにも大きいが、新たな一面を照射すべく議論のたたき台を提供できればよいと考えている。


3.研究発表

発表者:清水 誠 氏(北海道大学)

題目:フリジア語群の変容と言語研究――多言語使用におけるアイデンティティ――


[要旨]

 国をもたず、ドイツとオランダの3地域にわたって用いられるフリジア語群は、歴史的にオランダ語、デンマーク語、低地ドイツ語との接触を通じて発達してきたが、今日ではそれぞれオランダ語と標準ドイツ語の強い影響下にあり、大きな変容を遂げつつある。そうした状況のもとでフリジア語群の存在を支えてきたのは、何よりも話者の意識であり、フリジア人にとっては言語的なアイデンティティーが自らのアイデンティティーの基盤として大きな役割を演じてきたように思われる。ほとんどすべてのフリジア語話者が2言語あるいは多言語使用者となった今、近年のフリジア語の変容は話者の意識の変化と緊密な相関関係にあると言えるが、これにたいするフリジア語の擁護と言語教育は非常に熱心に行なわれており、フリジア語はいわゆる少数言語の言語政策として、フリジア人白身の厳しい自己評価に反して、他言語の場合と比較する限り、もっとも模範的な例のひとつであると言えるようにも思われる。この報告では、報告者の現地での体験を交えながら、フリジア語群の研究の一端を紹介し、少数言語の擁護のありかたと少数言語研究のもつ意義を示したい。同時に、フリジア語学の高い言語学的水準と興味深い言語現象のいくつかに注意を促し、ドイツ語学にとっての示唆を提供するように努めたい。なお、今回は、東フリジア語 (Seeltersk/Saterländisch, ドイツ・ニーダーザクセン州・クロペンブルク郡、話者約1,000~1,500人)は報告者の力量不足のために割愛し、西フリジア語 (Westerlauwersk Frysk, オランダ・フリースラント州、話者約40万人)と北フリジア語(Nordfriesisch, ドイツ・シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州・北フリースラント郡、話者約9,000~10,000人)の代表的な方言(Idiome)に話題をしぼることをお断りしておく。
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第36回例会(研究発表会)

日時:1998年9月26日(土) 13:30~17:30
場所: 関西ドイツ文化センター(京都)

<<内容>>

シンポジウム「認知論的視点から見た意味の問題」

1.研究発表

発表者:安藤知里氏(京都大学大学院生)

題目:認知意味論からみた所格交替現象の一考察


[要旨]

 認知意味論は、言語の意味的側面は人間の認知様式(知覚と認識のありよう) を体系的に反映し、それを言語の形式的側面が実現するという立場である。一方の極に外的現実があり、もう一方の極には言語表現がある。その両極を結ぶ回路に経験世界がある。言語表現は外的現実を忠実に映し出すのではなく、認知した 限りの外的現実を映し出すのだと考えられる。そこから言語普遍的な文の意味内容の骨格構造を解明することが目標である。
 本発表では、英語とドイツ語の所格交替現象を取り扱う。例えば以下の例文、

(1a) John loaded hay onto the truck.
(1b) John loaded the truck with hay.
(2a) Hans lud Heu auf den Wagen.
(2b) Hans belud den Wagen mit Heu.

 (1a)、(2a)の解釈には「トラックの一部に干し草を積む」、そして(1b)、(2b)の解釈には「トラックいっぱいに干し草を積む」と解釈される。これは、後者を「全体的」( holistic )解釈、前者を「部分的」( partitive ) 解釈とみなされる。所格交替形の研究は、様々な立場からこれら二つの異なる統語構造における「全体的」か「部分的」かという意味解釈の差異に関して、定式化および概念化を目 指す試みがなされてきた。例えば、それはFillmore (1968,1977)に代表される格理論による考察や、またJackendoff(1990)に代表される語彙概念構造を 用いた形式化の試みである。しかし、これらの試みは、どのような場合に「全体的」または「部分的」解釈がなされるのかという本質的な問題を解明することができないという難点がある。
 認知意味論において、文は語と談話をつなぐ回路とみなされている。つまり文 の意味には語彙的側面と構文的側面と発話的側面が深く関わりあっている。これら3つのレベルにおいて意味と形式の適性関係はどのように成り立っているか、この問題を視野に入れる必要があるが、本発表では主として語彙的側面と構文的 側面に注目する。所格交替現象において、(1b) (2b)の例文はJohn loaded the truck with a book./Hans belud den Wagen mit einem Buch.になると非文になることから、とりわけwith-/mit-句にどのような成分がくるかを考察し、 「全体的または部分的解釈がなされる要因は何であるか」を明らかにしたい。


2.研究発表

発表者:砂見かおり氏(大阪外国語大学大学院生)

題目:イディオム使用からみた人の認知能力について


[要旨]

 従来、ドイツのイディオム研究では、イディオムを分析する際の基準として イディオム性、固定性、再生産性という諸特徴が用いられてきた。また近年では、比喩研究への関心の高まりに連動するかたちで、イディオムの比喩性に注目した研究もみられるようになった。
 イディオムの比喩性に着目した研究においては、一般的な比喩とイディオムで は、次のような点に違いがあると考えられている:(1)イディオムはイディオム性、固定性などの特徴をもっているために、代入等の統語的操作が不可能であるという点で比喩表現とは異なる。(2)また比喩表現はイディオムとは異なり、 文脈や状況によって文字どおりの意味にもメタファーの意味にも解釈できる。しかし実際のイディオム使用をみると、統語的な操作を加えられたものや、文脈や状況に依存したものも存在することに気づく。こうした使用は、「凝結した ものを再び溶かす」、つまりイディオム化の過程を溯った結果とみることができる。また別の見方をすれば、このような使用例は、固定化されたものを逸脱させた結果と考えることもできる。いずれにせよここで重要なことは、こうした使用 を可能にするためには人の柔軟な認知能力が不可欠であるということである。今回の発表では、まず伝統的に取り扱われてきたイディオムの特徴を概観し、その後で更にイディオムの使用から見た人の認知能力について考えてみたい。


3.講演

講師:杉本孝司氏(大阪外国語大学教授,英語学)

題目:言語理解と認知モデル


[要旨]


 形式意味論における構成性原理とは「ある表現全体の意味はその表現を構成す る部分の意味とそれら部分の結合様式のみから決定できる」とするもので、西洋論理哲学の流れを組む形式意味論のもっとも特徴的な作業原理である。しかし言語が我々人間の認知活動の一側面であることを考えた場合、このような構成性の 原理に縛られ、あらゆる意味現象をこの原理を忠実に守ることによって説明しようとする試みには、不自然な分析や結論に陥ってしまう可能性が待ち受けていることも多いと言えよう。なぜなら、言語の意味理解には我々人間の認知活動があ らゆる点で関連しており、単に部分を構成している言語表現が「それ自体で独立して持つ意味」の形式的結合様式によってのみ全体の意味が決定されるような非能率的で非効率的な認知活動は皆無に近いのではないか、と考えられるからであ る。人間は、そのような単純な情報処理パターンよりもはるかに柔軟で効率的で能率のよい且つ人間的に有意義な情報処理の方策を備えもっており、認知活動の一側面としての言語活動にそのような能力が活用されていないとは考えにくい。 この「柔軟で効率的で能率のよい且つ人間的に有意義な情報処理」とは例えばどのようなものであろうか。この点に関して、「認知モデル」を設定しその一般的な特徴を言語理解や概念習得との関係で概観していきたい。


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第37回例会(研究発表会)

日時:1998年12月12日(土) 13:30~17:30
場所: 関西ドイツ文化センター(京都)

<<内容>>

1.研究発表

発表者:金子 哲太 氏(関西大学非常勤講師)

題目:ドイツ語の現在時称の位置付けについて


[要旨]

 現代ドイツ語の文法書で、時称について詳しく調べてみると、個別の項目には個々の意味用法が列挙されるに留まっているものから、時称体系における位置付け、さらに時称そのものの存在を問う根本的な問題にまで言及されているものまであり、統一性が見られない。特に現在時称は、その意味用法が他の時称に比べ多岐にわたっていることから、異なった視点からの記述がみられ、体系的に理解することは難しい。
 本発表では主要な文法書を複数用いて個別の事例を考察することによって、現在時称に対して従来とられてきた基本的な考え方を再度確認し、そこに生ずる幾つかの問題点を指摘する。それらを考慮に入れた上で試論的に新しい分類が提案される為の手掛かりとしたい。


2.報告

報告者:河崎 靖 氏(京都大学)

題目:Keltologie の現在


[要旨]

 神秘性ばかりが強調されてはなるまい。それでも、今日、アイルランド(愛蘭土)に向けられる最大の関心がそれである。ケルト語は、日一日と衰退への道を辿りながらも、なおヨーロッパの各地に過去の豊かな遺産を残す、魅力に満ちた極西のことばである。そもそも、現在ヨーロッパの中心に陣取るゲルマン語派の名称Germaniaも、所詮、古くはケルト語で「川(ライン川)向こう」という意にすぎなかった。
 ケルト人は、紀元前900年頃、今のドイツの地に東方から進入したと言われる(それ以前の先住民については詳しいことはわかっていない)。その後、ゲルマン人が北欧の地から東西に展開しながら南進するに伴い、ケルト人の一部はドイツ西北部からガリア (Gallia) を経てブリテン島を目指して移住し始めた。今日、ケルト学における議論の中心は、ケルト性 (celticity) の再考という問題にあるように思われる。すなわち、ケルトの古い文献(古アイルランド文献)は、その文献以前の時期からの異教的口承文学であるとみなすべきか、あるいは、キリスト教的創作活動(書写的)と捉えるべきかという争点である。今回の報告では、この問題を中心にKeltologie の現況について述べたい。


3.第 20 回言語学リレー講義

講師:脇阪 豊 氏(元天理大学教授)

題目:対極性と曖昧性


[要旨]


 ほぼ以下のようなプログラムを予定しています。第 1 部では、若干の歴史的な整理をした上で考え方の共通事項を設定してみるつもりです。第 2 部では、現在の会話分析で関心が持たれている、Gesprachsrhetorik の観点からいくつかの事例研究を紹介し、今後に期待できる言語研究への提案を、「対極性と曖昧性の」観念のもとで行いたいと考えています。プログラムにはいくらか変更があるかもしれませんが、大筋のところをあらかじめお知らせします。ご批判やご提案を期待しつつ。

Motto (Wittgenstein: "Philosophische Untersuchungen" 76. 1960: 329)

 Wenn Einer eine scharfe Grenze zöge, so könnte ich nicht als die anerkennen, die ich auch schon immer ziehen wollte, oder im Geist gezogen habe.


第1部:歴史的および現在的概観 (1950-1990)
人間の知的営みは、テーゼとアンチテーゼの積み重ねにより展開する。

◆ 初期の展開 (言語考察のための基礎作業)
1. 1957 N. Chomsky:統語論から意味論へ
「言語の構造についてのこの純粋に形式的な研究は意味論研究にもある種の興味深い含みをもっていることを示唆しよう…。」(『文法の構造』:1)
2. 1964 P. Hartmann:センテンスからテクストへ
Sprache in Textform ist also eine Zustandsform wahrnehmbar gemachter oder gewordener Sprache. ("Bogawus" 2, 15-25)
3. 1673 S. J. Schmidt : テクスト言語学からテクスト理論へ
言語考察をその関連領域に広げることの提唱 ("Texttheorie" 1973)
◆ 後半での傾向(言語学とその関連分野):言語学と心理学、言語学と社会学など

4. 行為理論と認知科学:コミュニケーション科学
5. 言語と情動の関係:ネットワークの考え方(関係性へ新たな視点)

第2部:原理と実際 Polaritätと Ambiguität
1.モデル(「理想型」)は2種の原理に関与している。
1.人間の選択能力の特徴と限界
2.「論理」的方法の必要条件

a. モデルの調整的機能:「依拠と判断の基準」を与えながら、統一的な方向を探る。
b. モデルの操作的機能:調査的機能とコントロール機能
◎理想型のモデルから実践型のモデルへ:対極性から中間点の位置づけ→曖昧性の追求
2. 事例研究
テクストの展開において、ある「表現単位」がその「意味単位」としての役割を変化させていくこと
3. 展望と提案
1.方法論的に:マルチメディアの言語研究上の可能性
2.対照研究として:Ich-Origo に対する Wir-Origo


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第38回例会(研究発表会)

日時:1999年5月8日(土) 13:30~17:30
場所: 関西ドイツ文化センター(京都)

<<内容>>

1.研究発表

発表者:石橋 美季 氏(関西学院大学大学院生)

題目:bekommen/kriegen/erhalten + 過去分詞構造の文法的機能


[要旨]

 現代ドイツ語では、次の能動文(a)に対応する受動文は、(b)であって、(c)とはならない。すなわち、能動文の与格目的語を主格主語にした(c)は不可能である。
   (a) Seine Mutter schenkte ihm das Buch.
   (b) Ihm wurde (von seiner Mutter) das Buch geschenkt.
   (c) *Er wurde (von seiner Mutter) das Buch geschenkt.
 けれども、(c)との関連を考慮するとき、いわばその代替表現として次の(d)のような文が散見される。
   (d) Er bekam (von seiner Mutter) das Buch geschenkt.
 しかしながら、文(d)を「受動文」と位置付けるべきか、それとも「目的格補語をとる能動文」と解すべきかについては、大きく議論が分かれている。  本発表では、(d)のような文構造を「bekommen/kriegen/erhalten + 過去分詞構造」という形で一般化し、この構造の位置付けと、その統語的・意味的機能の解明を目標とする。その端緒として、本発表ではこれまでの議論を整理して、問題の所在を明らかにし、その上で、この構造の位置付けについて考察していきたい。


2.報告

発表者:桐川 修 氏(奈良高専)

題目:インターネットを利用したドイツ語教育の可能性について


[要旨]

 インターネットが急速に発達している。1997年の統計でもすでに世界で少なくとも1,600万台のコンピュータがこれに接続され、5,000万人以上が定期的に利用しているといわれている。また最近ではインターネットを教育に利用する研究も数多く、その中でも語学教育の分野ではインターネットの特性を十分に生かした新しい教育方法の展開が期待されている。インターネットをどういう形で語学教育に利用するかという点で、次の三つの分野が考えられる。まず各種情報を収集するためのいわば『情報源(Informationsquelle)』としての利用である。以前より語学教育をおこなう際には言語そのものだけではなくその背景となる各種情報、たとえばドイツ語教育にあってはドイツ語圏の国々の政治、社会、文化など(いわゆるLandeskunde)を併せて学習することにより学習効果をよりいっそう高める努力がなされている。このような観点ではインターネットは教授者・学習者双方にとってきわめて有効な手段を提供してくれる。とりわけWorld Wide Webにおかれたホームページはその宝庫ともいえるもので、そこではこれまでの時間的・空間的な制約は完全に取り払われている。たとえば新聞社、ラジオ・テレビ局などのホームページからはリアルタイムでドイツ語圏各国の最新のニュース情報を手に入れることができ、また各州、各都市のサーバからはその土地独特の文化的情報を得ることができる。次に『コミュニケーションチャンネル(Kommunikationskanal)』としてのE-Mailの活用があげられる。これは目標言語たとえばドイツ語を用いたE-Mail交換を通じてドイツ語の作文能力向上を目指すものであり、とりわけ2カ国語を用いたE-Mail Tandem Network (Bochum) ではドイツ語と日本語のE-Mail交換によって日本のドイツ語学習者とドイツの日本語学習者との相互学習の場を提供するものとなっている。三つ目としてインターネットを『授業メディア(Unterrichtsmedium)』として利用することが考えられる。文字・音声・映像を一括して取り扱うことのできるマルチメディアの特性を生かして、インターネットをドイツ語学習の中心に据えるものということができる。この分野でもすでにいくつかのインターネット教材が公開されており、学習者はインターネットに接続されたコンピュータさえあれば教授者がいなくてもドイツ語の学習ができるようになっている。今回はこれら三つの領域の代表的サイトを紹介しながら、日本におけるドイツ語教育の分野への応用について考えてみたい。


3.第21回言語学リレー講義

講師:村木 新次郎 氏(同志社女子大学)

題目:単語の中の対称性


[要旨]

 われわれ人間は、われわれをとりまく世界を認識して、その断片をことばとして切りとってきた。これらの断片のなかには、ものごとを相互にむかいあっているものとして対立的にとらえ、そこにしばしば、ふたつの単語をあたえている。語彙の世界には、相反する二つの側面を対立させる性質があちらこちらに走っている。この2項対立は典型的にあらわれる。ふたつの単語が意味的にむかいあっているとはどういうことなのか。われわれが対義語ととらえているものには、いくつかのタイプのものがあり、ひとおおりではない。対義語には、形容詞、動詞、名詞など、さまざまな品詞に属する単語間になりたつものがあるが、それらのいずれについても、あるものの属性を特徴づけていると言うことができる。それらの二項対立の周辺には、融合や中和の現象を始め、対立項がなんらかの理由で欠けているなど、多様なすがたをみとめることができる。単語の世界にみられる二項対立のあり方を、対称と非対称という視点からながめてみたい。




4.総会



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第39回例会(研究発表会)

日時:1999年10月31日(土)13:30~17:30
場所:関西ドイツ文化センター(京都)

<<内容>>

「21世紀に向けてのドイツ語授業」

1.発表

発表者:中村 直子 氏(大阪府立大学)

題目:若いドイツ語教師のための研修に参加して


[要旨]

 今年の3月から4月まで、ミュンヘンで参加した「若いドイツ語教師のための研修」での体験を報告したい。この研修の趣旨は「erlebte Landeskunde」で、生のドイツを体験しようというものであった。そこで実際、我々参加者が何をしたのかという事の紹介をしたいと思う。つまり、具体的なプログラムの紹介、実際に自分たち(グループ単位)で体験したこと、様々な施設を訪問したこと、グループでの作業など、私の体験の報告からドイツのランデスクンデ、教育に対する姿勢を読みとっていただければ幸いである。最後にドイツの新正書法の現状にも触れておきたい。広範囲ではないが、教育現場での新正書法についてささやかな報告をしておきたい。


2.発表

発表者:藤原 三枝子 氏(甲南大学)

題目:ドイツ語授業のランデスクンデ――中級授業での実践例と、
ベルリン Goethe-Institut での体験学習 (erlebte Landeskunde) 紹介――




3.発表

発表者:Michael Müller-Verweyen 氏(関西ドイツ文化センター)

題目:Fremdsprachenunterricht am Goethe-Institut


[要旨]

   In diesem Beitrag wird es um die Antworten des Goethe-Instituts auf Herausforderungen gehen, denen sich der Fremdsprachenunterricht in den letzten Jahren gegenübergestellt sieht. Diese lassen sich benennen mit den Stichworten: Entgrenzung und Globalisierung der Kommunikation durch neue Medien, Individualisierung der Sprachkursbesucher und dementsprechend Differenzierung des Sprachkursangebots, Rückgewinnung zielgruppenadäquater kultureller Inhalte für den Sprachunterricht.


4.ディスカッション



5.総会



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第40回例会(研究発表会)

日時:1999年12月18日(土)13:30~17:30
場所: 関西ドイツ文化センター(京都)

<<内容>>

1.研究発表

発表者:片岡 宜行 氏(京都大学大学院生)

題目:『任意の与格』の用法――空間規定詞を伴う所有の与格を中心に――


[要旨]

    ドイツ語の「任意の与格」は、文法書において「所有の与格」「利益/不利益の与格」「関心の与格」などに分類した形で記述されている。そして、「所有の与格は身体部位の所有者を表す」「利益/不利益の与格は利害をこうむる人物を表す」といった解説がなされる。しかし、これだけでは与格の用法が十分に明らかにされているとはいえない。本発表では、以下の構文に見られる所有の与格に着目する。
   Er klopft ihm auf die Schulter.
   Er legt ihm die Hand auf die Schulter.
 これらの構文では、Schulter と ihm の間に見られるような身体部位名詞とその所有者の間の「所有の関係」は、例外なく空間規定詞の中の名詞と与格の間に生じる。したがって、このような構文に現れた与格は、身体部位名詞のみでなく空間規定詞全体と強く結びついていると考えられる。このような所有の与格の用法の分析を手がかりに、任意の与格について考察する。


2.報告

報告者:永井 達夫 氏(関西大学非常勤講師)

題目:ドイツ語の授業とインターネット


[要旨]

 2年次以降のテキストやランデスクンデの教材として、学習者のモティヴェーションを高める手段として、さらに学生の自習のためにも、インターネットの利用が有効なのは言うまでもありません。一方でそのための方法論がないため、私たちは各自が試行錯誤を繰り返しながら授業を行っているのが現状です。また各大学での設備の違いなど、ハード面での課題も決して小さくはありません。いずれにせよインターネットが一時的なブームで終わることがない以上、ドイツ語の授業とインターネットの関わり合いは、今後ますます深まっていくはずです。
 発表者はこの3年ほどのあいだ、ドイツ語の授業でインターネット(主にホームページ)がどのように利用できるか考えてきました。また実際の授業でも、さまざまな形でインターネットを活用してみました。さらにはドイツ語学習者のために、自らホームページまで開設しました。その過程で明らかになった問題点や、今後の可能性などを、出席者の皆さんといっしょに考えたいと思います。


3.第22回言語学リレー講義

講師:西本 美彦 氏(京都大学)

題目:文法の固定概念を疑ってみる


[要旨]

 現代の諸々の文法カテゴリーを考えてみる場合、多くの修正を受けながらも、その根底には形態論に依拠した伝統文法が生きながらえていることを無視できない。しかしながら、これらの固定化された文法概念が自然言語の現象を説明するのに不十分なのであれば、従来の文法概念に潜在的に内在している矛盾を想定することができる。もしそのような発想をしてみる場合、そして文法の固定概念からの離脱を試みようとする場合、いったい従来の文法概念はどのように組みかえられるべきか、あるいはどのような新しい概念分類が可能になるかについて、考えてみたい。
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第41回例会(研究発表会)

日時:2000年5月27日(土) 13:30~17:30
場所: 関西ドイツ文化センター(京都)

<<内容>>

1.研究発表

発表者:納谷 昌宏 氏(松阪大学)

題目:打撃動詞と語彙概念構造


[要旨]

 次の(1)と(2)はいずれも打撃の意味を表す文である。
  (1) a.Er schlägt den Hund mit dem Stock.
    b.Er schlägt den Stock auf den Hund.
  (2) a.Er verprügelt den Hund mit dem Stock.
    b.*Er verprügelt den Stock auf den Hund.
 動詞 schlagen では道具4格構文が可能であるのに対して、動詞 verprügeln では非文となる。こうした事実は、それぞれの打撃動詞の意味構造が異なることを示すものである。本報告ではそれぞれの動詞の語彙概念構造を分析することにより、打撃動詞がいくつかの意味タイプに分類されることを明らかにする。また英語の打撃動詞との対照をも試みたいと考えている。


2.第22回言語学リレー講義

発表者:渡辺有而氏 (関西大学)

題目:いわゆる副詞的2格とは何か――ベハーゲルの疑問の解明――


[要旨]

   現代ドイツ語の規範文法で一括して副詞的2格として扱われている表現に、時を表すもの(eines Abends usw.)と並んで、ベハーゲルが「歴史的関連の解明が最も難しい用法」と呼んだ、付随的状況・様態・関係・観点に関するものがある。この種の表現を筆者は、辞典に32個(leichten Herzens usw.)、現代ドイツ文学作品に新たに41個(verkniffenen Mundes usw.)見出した。とりわけ Th.マン(19個)、St.ツヴァイク(8個)の作品に多く、19世紀の作家では C.F.マイアー(11個)が目立つ。本発表では、この語法の言語史的背景を明らかにするとともに、カエサルの「ガリア戦記」に多用される具格的奪格・絶対奪格と対比させてその文化史的背景をも追求する。


3.総会

[議題]


  • 1.各委員からの報告
  • 2.新委員の選出



  • 戻る

    第42回例会(研究発表会)

    日時:2000年9月16日(土) 13:30~17:30
    場所: 関西ドイツ文化センター(京都)

    <<内容>>

    1.研究発表

    発表者:吉村 淳一 氏(大阪市立大学院生)

    題目:2格の機能の二層構造――「基本的機能」から「具体的な意味」へ――


    [要旨]

       2格が多面性をもち、用いられる環境によって一見しただけでは別の機能に見えるのは、2格のもつ基本的機能が、それほど固定化されたものではなく、可変的な要素を含んでいることに起因するのではないか。本発表の目的は、2格動詞(genitivfähiges Verb)を考察の対象にし内容的解釈にもとづく2格の分類をさらに越えて、2格を多種多様に見せるメカニズムを解明することにある。 研究史上、2格の基本機能に関する議論は、未だ解決を見ていないが、独立した個々の機能が混合した格として捉え、「本来的Genitiv」と「非本来的Genitiv」に分け、その本質を捉えようとする立場もあれば、すべての用法は、一つの機能から派生したと考える立場もある。これらの立場を紹介したうえで、2格が名詞を形容詞化する統語機能や2格がもつ意味機能の二層構造を取り上げ、2格の本質に迫ってみたい。


    2.研究発表

    発表者:神谷 善弘 氏(大阪学院大学)

    題目:入門期の発音指導について


    [要旨]

     ドイツ語入門期においては、発音の指導が重要であることは疑いの余地はないであろう。しかし、日本の大学のドイツ語の授業では、文法や語彙については、授業でも比較的丁寧に説明され、また参考書や単語集も数多く出版されているのに対して、発音については、授業が進むにつれ、練習の機会が少なくなり、自習の方法も明確でないのが実情である。実際に、1年生の後期や2年生の授業で、教科書のテキストをある程度でも正確に音読できる学生が少ないという経験は誰にでもあるだろう。 本発表では、大学の初級クラスの1年間の授業の流れの中で、すべての学生に、アルファベットの読み方や発音規則を身に付けさせる方法について提案を行う。具体的には、授業の実践報告を踏まえて、アルファベットの効果的な指導方法、発音規則の段階的な教え方、数詞の暗誦と関連づけた発音指導、教科書の音読練習の重要性、発音に関する試験の実施方法とその意義などについて詳述を行う。


    3.研究発表

    発表者:佐藤 和弘 氏(龍谷大学)

    題目:欧州連合と多言語政策:ドイツの場合


    [要旨]

     EU(欧州連合)では様々な分野でヨーロッパの統合を目指した試みがなされている。まずここではEUが提唱する多言語主義・多文化主義に基づいた言語政策に注目し、EU加盟国であるドイツで現在行われている言語政策・外国語教育に目を向け、その現状と問題点を考察する。次に今日の日本の言語政策・外国語教育、とりわけドイツ語教育の抱える問題点を考察していく。

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    第43回例会(研究発表会)

    日時:2000年12月16日(土) 13:30~17:30
    場所:関西ドイツ文化センター(京都)

    <<内容>>

    1.研究発表

    発表者:Jessika Häfker 氏(京都大学院生)

    題目:心の内的状態を表す表現の習得―― ドイツと日本の幼児と行った準備調査の紹介 ――


    [要旨]

       意図、感情、認知は、個人的で内的なものであるために、観察可能な状態ではないとされている。この発表では、子どもは心についてどのように知るようになるのかを考察したい。心理学はその問いに対してどのような答えを与えてきたのか。そして、それらの答えが妥当な答えなのか。このような問いに対する心理学の答えを点検する作業が発表の出発点となる。「心についての理解は言語を媒介として必要とする」「その理解は子どもと養育者の間における言語的及び身体的なやりとりから生まれる」という二つの仮説を立て、他者の心についての親子の会話を分析した。そこで情緒を表しやすい日本語の構造と語彙、ドイツの親子関係・内的状態語の使用・ドイツ語の複雑な構造を議論したい。


    2.研究発表

    発表者:三輪 朋也 氏(関西学院大学院生)

    題目:テクスト種類分析における方法論的考察―― 分析基準における不統一性の解明について ――


    [要旨]

       テクスト言語学では、われわれが社会的言語生活の中で経験的に具体的なテクストをある特定のテクスト種類へと分類できる事実を踏まえ、テクスト自体だけでなくテクスト種類およびテクスト種類分類に関わる特殊な規則性を解明するためにさまざまな分析基準を設定し具体的なテクスト分析をおこなってきたが、依然どんなテクスト(種類)にも適応できる方法上の統一的基準を見出せていない。本発表では、代表的な分析基準であるテクスト機能(Textfunktion)を中心に、先行研究における具体的なテクスト分析を例にあげ、基準としての正当性を検証し、さらにテクスト機能に代わる、あるいはテクスト機能を補助するその他の基準との関係を考察したい。


    3.研究発表

    発表者:湯浅 博章 氏(姫路獨協大学)

    題目:テンス・アスペクト・モダリティの相互干渉について―― daß補文等を中心に ――


    [要旨]

       「文」を構成する中心要素は定動詞であると一般的に認められるとすると、動詞に内在する人称、法、時制のような文法カテゴリーが文構造に何らかの影響を及ぼすことは十分に考えられる。けれども、この観点からの構文研究はまだ新しく、解明すべき問題は数多く残されている。こうしたことから、発表者はこれらの文法カテゴリーの意味・機能と文構造との影響関係を明らかにすることを現在の課題としている。本発表ではその端緒として、daß補文やそれに類する構文に見られるテンス・アスペクト・モダリティの影響とその相互干渉について考察することにしたい。


    3.定例総会

    [議題]


  • 1.会報改善案について
  • 2.賛助会員制度について
  • 3.会則の改定について
  • 4.会員意見開陳



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    第44回例会(研究発表会)

    日時:2001年5月26日(土) 13:30~17:30
    場所:関西ドイツ文化センター(京都)

    <<内容>>

    1.研究発表

    発表者:Amm Patcharaporn Kaewkitsadang 氏(京都大学院生)

    題目:日本語とタイ語における感情表現について――ジェスチャー・感情認識を中心に ――


    [要旨]

       今回の発表では、異文化間の感情表出の形式、またその形式の認知と意味づけを考察することを目的とし、基本的な姿勢としては感情とは感情行為(身体変化・身振り行動)とみなす。このような感情は言語・文化・社会と何らかの形で結びついていると考えている。人間は自分の心の中に起こっている感情をどのように表現するのか、また他者はその感情をどのように認識・解釈するのかについて日本人とタイ人の場合との比較をしてみたいと考えている。この発表は特に顔面表情に絞るものではないため、写真・ビデオなどは使わない。アンケート方法をとる。(他者の)感情認識を中心に考察しようと考えているので、アンケートからの概念的感情の表現形式についての情報(他人がある感情を抱いていることを知るための手掛かり)を重視する。ジェスチャーによる感情表現から見てみて、社会によって感情表現の構成要素への認知・注目の仕方が異なるのではないかと考えられる。


    2.研究発表

    発表者:長友 雅美 氏(東北大学)

    題目:ペンシルベニアドイツ語は消滅に向かっているのか?


    [要旨]

       ペンシルベニアドイツ語 Pennsylvania German language (Pennsylvania Dutch) は北米で発展したドイツ語方言変種の一つである。南ドイツのプファルツ方言とスイスドイツ語や他のドイツ語方言に英語の語彙・統語上の影響を受けながらここ300年の間の時間の流れの中で変化をとげ続けてきた。このドイツ語方言変種はかつて存在したテキサスドイツ語、サンフランシスコ湾岸ドイツ語、ウィスコンシンドイツ語、ネブラスカドイツ語等の二言語併用もしくは多言語使用のドイツ語の「言語島」と比べると、その社会的・宗教的諸要因の連続性故に堅固なものである。二言語併用もしくは多言語使用の領域では借用語彙・語法レベルの研究は話者の社会的地位、またはその話者の相手、関係する概念の度合い、借用語彙受容の特徴等を研究者に分析可能とする機会を与えている。今回の発表ではペンシルベニアドイツ語の概略を様々な角度から紹介しつつ、最近の「危機に瀕する言語」に関するフレームの中ではこのドイツ語方言変種の実態が把握しがたいこと、またこの言語の「言語文化維持運動」のために数多の努力が続けられていること等も論じることにしたい。


    3.定例総会

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    第45回例会(研究発表会)

    日時:2001年9月22日(土)13:30~17:30
    場所: 関西ドイツ文化センター(京都)

    <<内容>>

    1.研究発表

    発表者:井原 聖 氏(京都大学院生)

    題目:分離動詞の体系的な記述に向けての考察――auf-動詞、an-動詞を中心に ――


    [要旨]

       本発表では、その対象をPartikel: auf-, an-に限定し、これらのPartikelが通時的な意味変遷の過程で示す基本的な傾向をもとに、共時的にも同様の傾向を指摘でき、それを体系的に記述することが可能であるのかを探りたい。そこで、通時的な観点からは、Partikel のうちで、現在もはやその原義が感じられず、そしてまたそのようなPartikelと結合し分離動詞をなしているもののうち、基礎動詞の原義がもはや感じ取れなくなった、つまり意味的に高度に発達した動詞と考えられるaufhören, anfangenを中心に考察する。これらのいわゆる分離動詞の意味変遷を体系的に確認することにより、現在「分離動詞」というカテゴリーに一括されている動詞は、意味用法的には一見様々なタイプのものが混在しているかのように見えるが、それらの意味用法の背後では、統一的なメカニズムが働いているのではないかということを論じたい。


    2.研究発表

    発表者:黒沢宏和氏(琉球大学)

    題目:古高ドイツ語『タツィアーン』における法の用法について――特にラテン語との法の相違を中心に――


    [要旨]

       『タツィアーン』は、いわゆる総合福音書(Evangelienharmonie)であり、830年頃フルダでラテン語から古高ドイツ語へと翻訳された。従って、ラテン語のオリジナルに極めて忠実に訳されている。しかしながら、法(Modus)に関しては、オリジナルと異なった箇所が散見される。そこで本発表では、この法の相違の問題をモダリテート(Modalität)の側から考察したい。なぜなら、翻訳者の心的態度が法を選択する際に重要な役割を演じていると考えられるからである。


    3.研究発表

    発表者:黒田 廉 氏(富山大学)

    題目:動詞接頭辞 ab-と文意味


    [要旨]

       ドイツ語において、各動詞接頭辞は形態的には一つでありながらも、基底語との結合によって多様な意味の動詞語彙をつくっている。このような複合動詞による文の意味は動詞意味によってのみ担われるのではなく、目的語などの文構成素のもつ語彙的意味、実世界についての語用論的知識によっても補われている。
     本発表では、接頭辞 ab-による複合動詞文について、まず文意味構造と基底語、接頭辞との意味的結合関係を分析し、次に、このような意味的枠組みの中に、実世界についての語用論的知識に整合するような語彙的意味をもつ各文構成素が組み合わされ、文意味が形成されていることを示す。

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    第46回例会(研究発表会)

    日時:2001年12月15日(土) 13:30~17:30
    場所: 関西ドイツ文化センター(京都)

    <<内容>>

    1.ドイツ語学コロキウム《話者・人称・主語をめぐって》

    コーディネーター:西本 美彦氏(京都大学)

    研究報告1

    報告者:岸谷 敞子氏(愛知大学)

    題目:〟Satzbildende Person “(構文の主体)――あるいは〟Die Origo des Zeigfeldes “
    (指示場の原点 ― 表現行為の起点)としての〟Sprecher“(話者)について――


    [要旨]

     個別言語の使用法や文法規則を記述するとき、私たちは「話者(Sprecher)」の概念をことさら術語として定義することもなく使用するのが普通である。「話者」であることがどういうことであるか、各人は自分自身が話者であるときの体験を通して自明のように了解しているからである。しかし、西欧伝統のコミュニケーション・モデルにしたがって「一人称単数=発信者の役割」と意識する場合の「話者」と、日本語で「自発」や「受身」の態を選んで叙述内容を形成する言語主体が「自分=表現行為の起点」と自覚する場合の「話者」とでは、「話者」についての了解が同じであるとは言えない。人称三分法にしたがって述語を形成しなければならないドイツ語の話者にとっては、Karl Bühler の「指示場の原点(Die Origo des Zeigfeldes)」によって示唆されるような「表現行為の起点」を、まだ人称に分類されていない「主体としての自分」と意識することは、かなり困難であるのかもしれないが、このような「表現行為の起点」としての「話者」の機能を想定することは、日本語のみならずドイツ語の文法研究にとっても必要であり、有用でもあるように思われる。両言語のいくつかの例を手がかりにして、「話者」と「主語」の言語普遍的な関係について考えてみたい。


    研究報告2

    報告者:湯浅 博章氏(姫路獨協大学)

    題目:構文形成と「話者」の機能


    [要旨]

     言語研究の中で「話者(Sprecher)」という概念に言及されるのは、心態詞やモダリティのような語用論的研究の中であることが多い。その場合には、「話者」とは発話の場面に存在する人物を指していて、伝達内容(すなわち、言語表現)を発話して伝達する送り手として理解されている。確かに、このようなコミュニケーション・モデルにおける発信者としての役割も「話者」の特徴ではあるが、こうした理解では、語用論的に付与される表現・意味以外の伝達内容の核、つまり叙述内容そのものを形成する主体としての「話者」の姿は見えてこない。「話者」は発信者であると同時に、現実世界を言語化して叙述内容を形成する主体でもあるのは確かである。そうすると、叙述内容の形成にも「話者」による現実世界の捉え方・切り取り方が何らかの形で反映されていると考えられるが、こうした観点からの構文研究はまだ進んでおらず、これからの重要な課題であると言える。本発表では、日本語とドイツ語に見られる例を手がかりにして、叙述内容の形成に際して「話者」がどのような役割を果たしているのかを探ることにしたい。



    2.臨時総会

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    第47回例会(研究発表会)

    日時:2002年5月25日(土) 13:30~17:30
    場所: 関西ドイツ文化センター(京都)

    <<内容>>

    1.研究発表

    発表者:金子 哲太 氏(関西大学非常勤講師)

    題目:『2重過去完了形』の位置付けについて


    [要旨]

     ドイツ語には一般に、6つの時称形式がみとめられているが、ときとして完了形が2重に構造化されたようにみえる統語形式が現れることがある。

    a) Er hat die Arbeit schon abgeschlossen gehabt.
      (彼は仕事をもう終えてしまっていた。)  G.Helbig /J.Buscha 1994 S.160

    b) Frau R. hatte den Pachtvertrag gekündigt gehabt.
      (R女史は用益賃貸借契約を解約していたのだった。)  H-W. Eroms 1984 S.347

     これらの統語形式のうち、一般に、a)タイプのものは、とりわけ話し言葉での使用がみとめられる一方、文章語においては b)タイプのような表現が散見される。こうした統語現象が現れる頻度は絶対的に低いといわなければならないが、文法書ではすでに16世紀にその記述がみられ、等閑視されつつも現代に至るまでその存在は文法家たちにみとめられてきている。個別の研究対象として文法研究のなかで扱われ始めるのは1960年代の初め頃からであり、それぞれ異なった立場で研究がなされてきた。たとえば、上部ドイツ語に生じた「過去形消失」との関連で、その出自や体系的位置付け、あるいは標準語か方言かの問題について、一方またフランス語にみられる類似現象との対照比較や、時称意味論的、アスペクト意味論的視点からの個々の意味用法の抽出などである。
     本発表では、考察の対象を b)タイプに絞り、その意味用法についてこれまで議論されてきた幾つかの解釈を確認したうえで、この統語形式が担う文法的な役割について考察することにしたい。そのさい、完了構造を持つ時称形式との形態論的・意味論的関係から、時間性とアスペクト性という観点を考慮に入れ、ひとつの試みとして動詞カテゴリー内における位置付けを行ってみたい。



    2.第24回言語学リレー講義

    発表者:三谷 惠子 氏 (京都大学)

    題目:ロシア語およびスラヴ語の動詞の<体(たい)>について


    [要旨]

    0)はじめに。スラヴ諸言語の動詞には<体(たい vid)>がある。「体」とはどのようなものなのかを、形態統語論的特徴および意味機能の両面から取り上げ、文法範疇としての「アスペクト」について考える材料を提供したい。

    1)<体>の形態論的特徴について。ドイツ語やロシア語で名詞にそれぞれ固有の文法的性があるのと同じように、スラヴ語においては動詞が<体>という文法的特性をもつ。すべての動詞は完了体か不完了体のどちらか(機能上両方の体の意味を持つ両体動詞が若干ある)であり、その基本的意味は、完了体が事象を「完結した全体」として表し、不完了体はそのような完結の意味を含まずに提示することにあるとされる。完了体と不完了体は<体>のペアを形成するといわれるが、体の形態論的特徴は部分的にドイツ語のAktionsartの形成と共通する。そこでドイツ語との共通点、そして根本的な相違点はどこにあるのかを明らかにする。

    2)<体>と語彙意味の関係について。動詞の体はペアをなすとはいえ、もちろんすべての動詞で体のペアが形成されるわけではない。ここには動詞語彙の意味と、完了体、不完了体それぞれの<体>の意味が関与する。この現象に関連して、どのような問題があるかを、動詞の項構造の関連も含めて簡単に述べる。

    3)<体>の定義について。スラヴ語学、とくにロシア語学においては<体>の定義付けが大きな議論であり続けた。それはなぜなのか。体の用法上の制約や体の異なりによって生じる意味的違いといった言語事実を指摘しながら、<体>の定義に関する問題について述べる。

    4)スラヴ語間の違いについて。動詞の体の存在はスラヴ語全体に共通するが、個別の用法にはさまざまな違いがある。こうした違いのいくつかを例に、体の表す意味の、体に固有の本質的部分とそうでない部分について述べる。



    3.総会

    [議題]

  • 1.各委員からの報告
  • 2.新委員の選出

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    第48回例会(研究発表会)

    日時:2002年9月14日(土) 13:30~17:30
    場所: 関西ドイツ文化センター(京都)

    <<内容>>

    シンポジウム「ドイツ語教育への新たなアプローチ
    ――その実践的可能性――」

    司会:河崎 靖 氏(京都大学)

    報告1

    報告者:桐川 修 氏(奈良高専)

    題目:ビデオ教材のデジタル化について


    [要旨]

     ここ数年、各出版社からビデオ付きの教材が続々と出版されている。美しい映像で学習者を惹きつけ、ドイツ語の学習とならんでドイツ語圏のLandeskundeをもあわせて学べるようになっているものが多い。ただ、ビデオ教材を学習者に提示する際にはクラス全員に、一斉に上映するという方法がとられているように思われる。この場合、たとえばもう一度最初から見たい、とか、ある部分だけを繰り返し見てみたい、などの学習者個人個人の希望をかなえるのは難しいであろう。このような希望をある程度かなえるために、筆者はビデオ教材をデジタル化し、ホームページで各人が自由に視聴できるような方法を採っている。今回はこの方法を皆さんにご紹介したい。


    報告2

    報告者:清水 政明 氏(京都大)

    題目:最先端技術を用いて


    [要旨]

     2002年2月より京都大学学術情報メディアセンターに新たに導入されたコンピュータ支援型語学教育(CALL)システムの紹介を通じて、CALLの可能性について考察する。特に、マルチメディア・マルチリンガルな環境への対応を考慮しつつ、システム主導型ではなく、コンテンツ重視の語学教育を実現するためのシステム構築の可能性について、これまでの経緯を踏まえて考察する。



    報告3

    報告者:北原 博 氏(大阪市立大・非常勤)

    題目:自作CALL教材を使用した授業の実際


    [要旨]

     コンピュータを授業に取り入れる際に、教材は大きな問題となる。報告者はこれまで普通教室用に作られた教科書をCALL教材にアレンジして使用してきたのであるが、そうした実践を通して作成してきた教材を紹介したい。併せて、授業でコンピュータを使用することによって現れる学習効果、授業形態の変化などについても検討してみたいと考えている。




    報告4

    報告者:吉村 淳一 氏(大阪市立大・非常勤)

    題目:TA の立場から


    報告5

    報告者:森 秀樹 氏(大阪大・院生)

    題目:学生の本音


    討論会



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    第49回例会(研究発表会)

    日時:2002年12月14日(土) 13:30~17:30
    場所: 関西ドイツ文化センター(京都)

    <<内容>>

    1.研究発表

    発表者:長縄 寛 氏(関西大学大学院生)

    題目:古高ドイツ語、中高ドイツ語の不定関係代名詞 sô wer sô, swer について


    [要旨]

     古高ドイツ語の不定関係代名詞 sô wer sô(~するところの者は誰でも)は、中高ドイツ語期に至り、swer へと簡略化され、14世紀には wer となる。本発表では、古高ドイツ語期の作品である『オトフリトの総合福音書』と、中高ドイツ語期の作品であるハルトマン・フォン・アウエの『イーヴァイン』を取り上げ、これら二つの作品に見られる不定関係代名詞が当時どのように用いられていたのか、具体的な例文を挙げながら述べてみたいと思う。


    2.第25回言語学リレー講義

    発表者:石川 光庸 氏(京都大学)

    題目:『ヘーリアント』詩人の語り口


    [要旨]

     これまでの人生そのもののごとく、教員としても研究者としてもディレッタントを貫いてきたこの私に、真摯な言語研究者集団を前にしていったい何を語ることができるでしょうか。幸い研究発表ではなく講義のようにやってよろしいとのことなので、いつもの学生を煙に巻いている(当方にその意図はないのですが―)情景の一端をお目にかけることになるでしょう。まず初めに(私事で恐縮なのですが)『ヘーリアント』にたどりつくまでの遍歴、いや彷徨についてもちょっと触れ、その後『ヘーリアント』詩人の語り口という視点からいくつか考えていることをお話しいたしたいと思っております。その多くは印象批評の域を出ていないのではありますが。


    3.研究発表

    発表者:成田 節 氏(東京外国語大学)

    題目:結合価と構文――ドイツ語と日本語の対照――


    [要旨]

     日本語と比べながらドイツ語の構文の特徴を照らし出すという大枠で、この報告では以下のような観点を中心に、できるだけ具体的に考える。(1)動詞の結合価が文構造を決めるという仕組みは両言語でどのように異なるか。(2)文構造が特定の文意味を形成するという仕組みは両言語でどのように異なるか。(3)視点と構文の関係は両言語でどのように異なるか。(まだまだ研究の途上です。様々な観点からのご指摘がいただければ幸いです。)

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    第50回例会(研究発表会)

    日時:2003年6月7日(土) 14:00~17:00
    場所: 関西ドイツ文化センター(京都)

    <<内容>>

    1.研究発表

    発表者:羽根田 知子 氏(京都外国語大学)

    題目:damit文の時制について


    [要旨]

     主文と副文から成る文を書く時、副文の時制をどうすればよいのか迷うことがある。例えば、「私は、彼女が風邪を引かないように、私の上着を貸してあげた」という文を書く場合、「彼女が風邪を引かないように」の部分に接続法を用いないとすれば、現在形で表すのか、あるいは過去形で表すのかという問題が生ずる。又、主文と副文の時制が共に過去形であっても、接続詞がdassとdamitでは、主文と副文によって表される事柄の時間関係が異なる。
     ドイツ語には、いわゆる「時制の一致」がないと言われているが、ではどうすればよいのかと問われると、即答するのは難しい。本発表では、damit文の時制を観察することから始めて、一定の傾向を導き出し、さらに、時制が一致しているように見える文を、「時制の一致」という言葉を用いないで如何に説明しうるかを考察したい。



    2.第26回言語学リレー講義

    発表者:武市 修 氏(関西大学)

    題目:中高ドイツ語叙事詩に見られる表現の多様性


    [要旨]

     ドイツ語の歴史の中で中高ドイツ語の時代は、独特の様相を呈している。つまり、一方では総合的構造から分析的構造への言語の一般的な変遷の過程をたどるとともに、他方では、脚韻文学なるが故の独特の表現形式が並存しているのである。詩人たちは制約された条件の中で彼らの詩的世界を表現するために、様々な手段を用いた。本発表では、宮廷叙事詩を中心に、前者の一例として、分離動詞への過渡的な現象の一端を垣間見、後者の例として、押韻しリズムを整えるための動詞の縮約形(例えば、過去分詞gesaget, gelegetなどの代わりのgeseit, geleitなどの形)やさまざまな迂言法(例えば動詞の繰り返しを避けるための代動詞としてのtuonの用法など)を例示し, また、その中間的な現象として、文法化されつつある中で元の意味をも残している完了や接続法の多様な用法など、語形、語順、統語法の面から当時の宮廷叙事詩にみられる独特の表現について紹介してみたい。


    3.定例総会


    ※この会で会誌第2号が発行された。

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    第51回例会(研究発表会)

    日時:2003年9月27日(土) 13:30~17:30
    場所: 芝蘭会館 国際交流会館

    <<内容>>

    1.ドイツ語教育シンポジウム

    司会者:湯浅 博章 氏(姫路獨協大学)

    報告1

    報告者:岸川 良蔵 氏(鳥羽商船高専)

    題目:項目小出し方式――45分授業という条件のもとで――




    報告2

    報告者:吉村 淳一 氏(大阪市立大学非常勤)

    題目:学生との対話




    報告3

    報告者:本田 陽太郎 氏(奈良県立医科大学)

    題目:ドイツ語力と専門ドイツ語




    報告4

    報告者:神谷 善弘 氏(大阪学院大学)

    題目:ドイツ語の授業を再考する――ドイツ語教育の底辺を拡大するためのいくつかの方法――




    2.自由討論会

    [シンポジウム要旨]

     旧文部省によるいわゆる「大綱化」以来、ドイツ語教育をめぐる環境は激変した。全国の大学、高専、中学・高校のカリキュラムが改革され、これとともにドイツ語教育は「危機的な」状況に陥った。こうした状況を受けて、教授法の研究や授業の見直しが進められ、新たな教材やさまざまな機器の活用法が模索されてきた。日本独文学会やドイツ語教育部会、ならびに本研究会でも何度もシンポジウムや研究発表が行われ、これからのドイツ語教育のあるべき姿について議論されてきた。けれども、これまでの試みは素材と道具をどのように改良するかという範囲に留まっていて、いわば食材と調理器具を使ってどのような料理を作り出すか、つまりシェフの腕に関わる部分の議論までには至っていないように思われる。我々がドイツ語教師として日々教壇に立つ以上は、いかに腕を磨くかという問題は避けて通ることのできない問題であり、今後はこの問題に関する議論が必要になってくるであろう。そこで、この問題に対する本研究会での試みの第一歩として、今回のシンポジウムを企画した。
     今回のシンポジウムでは「効果的な授業」ということをテーマに取り上げているが、どのような授業を「効果的」と判断するかの基準は、もちろんカリキュラム等の環境によって異なるであろう。しかし、どのような環境に置かれようと、それぞれの教師が行う授業が効果的かどうかはその授業を受けている学生が判断するのであり、この点では環境によって左右されるものではない。こうした基本認識に立ち戻り、「効果的な」授業にするためにどのような工夫をしたり、どのような問題を抱えているかということを忌憚なく話し合い、そこから参加者の方々が何らかのヒントを得られるような機会にしたい、というのが今回のシンポジウムの趣旨である。シンポジウムでは、まずそれぞれの報告者からおおよそ以下のような項目についての具体的な工夫点、問題点が示され、その後報告の内容をもとにして会場全体で討論および情報交換を行いたい。今回のシンポジウムが参加者の方々の、ひいてはこれからのドイツ語教育の改善につながる機会となることを関係者一同願って止まない。


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    第52回例会(研究発表会)

    日時:2003年12月20日(土)13:30~17:30
    場所: 関西ドイツ文化センター(京都)

    <<内容>>

    1.研究発表

    発表者:塩見 浩司 氏(関西大学非常勤講師)

    題目:ゴート語の動詞接頭辞 ~統計的考察の試み~


    [要旨]

     ゴート語は最古のゲルマン語として最もまとまった資料を提供していることは論を待たない。その資料の大部分はコイネーで書かれた新約聖書の翻訳であるが、これは原典であるギリシャ語に極めて忠実に従っているものとして知られている。ここで興味を引くのは動詞の問題であろう。ギリシャ語は動詞の活用体系が非常に豊富であり、アスペクトを有している。このような言語で書かれたものを動詞の活用体系に乏しいゴート語に翻訳する際にはそれなりの工夫が必要であったろうことは想像に難くない。そういった工夫のひとつとして動詞接頭辞の使用が考えられるのではないか。本発表はゴート語の動詞およびその接頭辞の意味や機能について考察を試みるものであるが、その際には新約聖書中に見られるゴート語動詞の用例をギリシャ語原典のそれと対比させるため現在作成中の『ゴート語・ギリシャ語動詞データベース(仮)』を用いる。



    2.研究発表

    発表者:坂口 文則 氏(福井大学)

    題目:翻訳によって伝達される情報量を計量する試み


    [要旨]

     数理科学と言語学の間にはさまざまな接点を探ることができるが、その一つとして、C. Shannonらによって「情報通信の数理的理論」として20世紀半ばに定式化された「情報理論」が、自然言語の分析とどのような接点をもちうるかを考えてみたい。一つの試みとして、時制体系の異なる言語間の翻訳において動詞の時制に関する情報がどれだけ伝達されるのかを、情報理論で定義される「相互情報量」を用いて量的に測定することを試みる。また、自然言語をこのアプローチに載せる際に解決しなければならないいくつかの問題点についても触れる予定である。


    3.研究発表

    発表者:成田 節 氏(東京外国語大学)

    題目:ドイツ語と日本語の受動文をめぐって


    [要旨]

     ドイツ語と日本語の受動文を比較しながら両言語における受動文の意味的な特徴を探り出すことを目指す。多くの文法書には、受動文と能動文は視点が異なるという叙述が見られるが、この「視点」という概念の再検討がまず必要だ。ここでは「注視点」(どこを見ているか)と「視座」(どこから見ているか)の区別を明確にした上で、ドイツ語の受動文の特徴を捉えるさいには「注視点」が重要だが、日本語の受動文の特徴を捉えるさいにはむしろ「視座」が重要になるという考えを軸に、結合価の減少(ドイツ語の受動文)と増加(日本語の受動文)の対立、被害の3格(Dativ incommodi)と日本語の迷惑受身の対応などの問題にも触れながら考察を進める。また、単なる理屈だけに終わらないように、日本語の小説の原文とドイツ語訳を用いて、それぞれの受動文が実際にどのように用いられているかを観察する。
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    第53回例会(研究発表会)

    日時:2004年5月29日(土)13:30~17:30
    場所: 京都ドイツ文化センター

    <<内容>>

    1.報告

    報告者:増本 浩子 氏(姫路獨協大学)

    題目:ラジオによるドイツ語授業の3つの困難


    [要旨]

     私は2003年4月から半年間、NHKラジオドイツ語講座入門編を担当した。番組担当中は、ラジオというメディアを使ったドイツ語授業に特有の問題に悩まされた。普段行なっている大学での授業との相違から、特にとまどったのは次の3点だった。
    1) 不特定多数の人々を対象にしていること: リスナーの年齢には大きな幅があり、彼らの関心やドイツ語を学ぶ動機は様々である。そのため、すべてのリスナーが満足できるような番組を作ることはほぼ不可能に等しい。
    2) フィードバックが欠けていること: 相手の顔が見えないので、こちらの言いたいことがちゃんと伝わったかどうか、その場では把握できない。また、テスト等も行なうこともできないので、リスナーが番組を通じてどの程度ドイツ語力を身につけたのかもわからない。
    3) 視覚教材が使えないこと: ラジオだから写真や実物を見せられないのは当然としても、教科書や黒板さえ使わず、すべて耳で聞いてわかるようにことばで説明するのは、想像するよりはるかにむずかしいことだった。(書店で販売しているテキストの購入を義務づけることはできないので、番組は原則的にリスナーがテキストを持っていないものとして構成される。また、リスナーの中には視覚障害者も多い。)
      研究会では、これらの困難を克服するためにどのような工夫をしたかについて報告する。また、世間でドイツ語学習に対する関心が薄れつつある昨今、テレビやラジオの講座が果たす役割についても考えてみたい。


    2.第27回言語学リレー講義

    講師:齋藤 治之 氏(京都大学)

    題目:ゲルマン語動詞組織の特徴――他のインドヨーロッパ諸語との比較において――


    [要旨]

     ゲルマン語の動詞組織の特徴は語根が本来有するAktionsartとは無関係に、動詞がその音韻構造に従って、語根をⅠ類からⅦ類までの母音交替のパターンに組み込み、それに基づいて 1. 不定詞、2. 過去単数形、3. 過去複数形、4. 過去分詞形を形成する、という点にある (例:Ⅰ類 1. CeiC-(>CīC-)、2. CoiC-(>CaiC-)、3. CiC-、4. CiC-)。他のインドヨーロッパ諸語においてはこのような機械的なパターン化は稀であり、祖語の古い段階の動詞組織を保持すると考えられているサンスクリット語やギリシア語では、完了相の動詞は“語根アオリスト”、未完了相の動詞は“sアオリスト”という具合に、動詞の語根が有するAktionsartが動詞組織の形成に重要な役割を果たしている。本発表では、近年研究の進展とともに、動詞組織に関してサンスクリット語やギリシア語のような古いタイプの言語とゲルマン語のように比較的新しいタイプの言語の中間に位置すると考えられるようになっているトカラ語の例も挙げることにより、インドヨーロッパ語族に属する諸言語の動詞組織の発展を辿り、それによりゲルマン語の動詞組織の特徴を浮き彫りにすることを目指している。


    3.定例総会

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    第54回例会(研究発表会)

    日時:2004年9月25日(土)13:30~17:30
    場所: 京都ドイツ文化センター

    <<内容>>

    1.ドイツ語教育シンポジウム

    司会者:桐川 修 氏(奈良高専)

    報告1

    報告者:羽根田 知子 氏(京都外国語大学)

    題目:京都外国語大学の場合




    報告2

    報告者:島 憲男 氏(京都産業大学)

    題目:京都産業大学の場合




    報告3

    報告者:藤原 三枝子 氏(甲南大学)

    題目:甲南大学の場合




    報告4

    報告者:湯浅 博章 氏(姫路獨協大学)

    題目:姫路獨協大学の場合




    2.自由討論会

    [シンポジウム要旨]

     近年、ドイツ語教育は厳しい状況におかれ、それぞれの教育機関でこれに対応したそれなりの工夫が行われてきた。しかし、2007年に大学全入化時代を迎えようとしている今日では、ドイツ語教育に携わる私たちはさらに困難な状況に直面していると言える。国公立大学および国公立の教育機関では独立行政法人化が進むことにより、「学生へのサービス」として教育システムを充実させることは急務となっている。また、私立大学では教育システムを「学生へのサービス」として充実させることはもちろん、すでに生き残りをかけた戦いが始まっている。こうした状況に乗り遅れることなくドイツ語教育を改善していかなければ、ドイツ語教育がさらに衰退していくことは目に見えている。それでは、どのようにすれば「学生へのサービスとしてのドイツ語教育」が実現できるのであろうか。そもそも高い志があれば教育現場での改革は可能なのであろうか。技術的な創意工夫(例:教材開発、CALLの導入など)だけではどうしようもない教育行政面での制約が目の前にある中で、どのような方策が考えられるであろうか。今回のシンポジウムでは、国公立大学に先んじてさまざまな努力がなされている私立大学から数名の報告者を迎え、その諸報告をもとに、参加者間でいかにしたら生き残りがはかれるのか、その方策について議論する。


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    第55回例会(研究発表会)

    日時:2004年12月4日(土)13:30~17:30
    場所: 京都大学大学院人間・環境学研究科棟233研究室(2階)

    <<内容>>

    1.講演

    発表者:Alfred Ebenbauer 氏(ウイーン大学)



    題目:≫Österreichisches Deutsch≪


    2.研究発表

    発表者:薦田 奈美 氏(京都大学院生)

    題目:「意味変化現象における伝統的分類の見直し~ドイツ語の場合~」


    [要旨]

     意味変化現象とは、時間の流れの中で様々な影響を受けながら語の意味が分化し、それが慣習化して定着するという一連の流れを指している。この通時的現象としての意味変化を考える上で必要となるのは、新しく意味が発生する段階とその意味が定着する段階に区別して現象全体を捉えることではないだろうか。従来の歴史言語学における研究では、そのプロセスが複雑なものであるために明解な説明が困難であるとされてきたが、これらの区別によって、意味変化現象に新たな観点からアプローチを行うことが可能であると考えられる。本発表では、新たな意味が発生する段階においては、そのメカニズムを実際の個人の使用におけるメタファー・メトニミーとして考え、定着する段階においては、多義ネットワークの形成による類義語との競合を中心に、辞書記述観察を通して、認知的観点からの意味変化現象に対する説明を試みる。また、その基準や観点が統一的ではない伝統的な意味変化現象の分類方法について、メカニズム内の様々な要素の違いを検討することによって、新たな分類基準を設け、意味変化の原因や共通性といった根本的な部分を説明しうる基盤の構築を目指す。


    3.報告

    発表者:Cornelia Jung 氏(ライプツィヒ大学)

    題目:≫Das Deutsch als Fremdsprache Studium an der Universität Leipzig≪


    [要旨]

     Ich studiere an der Universität Leipzig Japanologie und Deutsch als Fremdsprache (DaF) im Hauptfach, und mache seit Oktober ein Unterrichts-Praktikum für DaF an einer japanischen Universität (Dokkyo-Universität Himeji). In meinem Vortrag möchte ich aus der Sicht der Studenten über das heutige Bild des Fachbereichs DaF der Universität Leipzig und des Herder-Instituts berichten: z.B. wie der Bereich unserer Universität organisiert ist, wie sein Studiensystem funktioniert und wie sich das theoretische Studium und die praktische Ausbildung ergänzen, usw. Desweiteren werde ich in meinem Bericht auch die heutige Situation der Japanologie an unserer Universität erwähnen.

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    第56回例会(研究発表会)

    日時:2005年5月28日(土) 13:30~17:30
    場所:京都ドイツ文化センター

    <<内容>>

    1.ドイツ語教育シンポジウム
    「到達度から考えるドイツ語学習への動機付け」

    司会者:桐川 修 氏(奈良高専)

    基調講演

    講師:Rita Sachse-Toussaint(Goethe-Institut/Osaka)

    題目:Die neuen Prüfungen "Start Deutsch": Format-Voraussetzung-Motivation




    報告1

    報告者:齋藤 治之 氏(京都大学)

    題目:独検(ドイツ語技能検定試験)の現状と課題 ── 実例に基づいて──




    報告2

    報告者:湯浅 博章 氏(姫路獨協大学)

    題目:第2外国語の授業における到達目標と動機付け




    2.自由討論会

    [シンポジウム要旨]

      いわゆる旧文部省の「大綱化」以来、「ドイツ語教育の危機」に対してはさまざまな形で議論され、ドイツ語教育の改善が試みられてきました。京都ドイツ語学研究会においても、これまでにさまざまな側面からドイツ語教育の改善について考えてきました。その中では、それぞれの教育機関における制度的な問題、効果的な授業を行うためのハードウェア、ソフトウェアの問題、ドイツ語学習者の激減を食い止め、少しでもドイツ語履修者を増やすための動機付けの問題、私たち教員の教え方の問題等を取り上げてきました。こうした流れを踏まえた上で、今回のシンポジウムでは、これまでは中心テーマとして取り上げてこなかった「到達度」という問題から「ドイツ語教育の危機」に抗するための方策を探ることにしたいと思います。
     「到達度」はドイツ語教育のいわば「出口」であり、どのような目標を設定して授業を行い、最終的に授業の成果が見られたのかどうか、またその目標設定が妥当であったかどうかを診断する重要な要素ですが、ドイツ語教育の改善についての議論はともすれば「入口」周辺の議論に終始することが多いように思われます。けれども、近年の学生の学力低下や厳しい就職状況等の結果、学生がどの外国語を選択するかの基準に考えているのはドイツ語を学べばどのような役に立つかという「出口」のイメージであり、ドイツ語教育の振興を図るためにはこの「出口」を考え直しておく必要があるように思います。
     「到達度」を計る試験としては、普段の私たちの授業における試験の他にも、ドイツ語技能検定試験(独検)のような検定試験が考えられます。また、ドイツ語圏の国々においてもEU評議会の新たな枠組みに基づいて、例えばGoethe-InstitutのStart DeutschやZD、ZMPのような検定試験が整備されており、これらは日本においても受験することが可能になっています。しかしながら、こうした試験はどれも目標としているところがさまざまで、それぞれの試験に合格すればどのような効果があるのかが見えにくく、学生へのドイツ語学習の動機付けには結びついていないように思われます。そこで、今回のシンポジウムではそれぞれの試験の性格や目標設定を再確認して、今後どのような到達目標を立てればドイツ語学習に対する学生のモティベーションを高めることができるのか、ドイツ語教育の振興を図ることに繋がるのかを参加者の皆様とともに考える機会としたいと思っております。


    3.定例総会



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    第57回例会(研究発表会)

    日時:2005年9月10日(土) 13:30~17:30
    場所:京都ドイツ文化センター

    <<内容>>

    研究発表会

    司会者:河崎 靖 氏(京都大学)

    研究発表1

    発表者:檜枝 陽一郎 氏 (立命館大学)

    題目:不定詞と分詞の相克──中世期の低地言語の事例から──


    [発表要旨]

     現在のドイツ語では、gehen が zu のない不定詞つきで用いられることはあまりない。他方、kommen が同様に使われる場合には、ふつうは動詞の過去分詞とともに用いられ、不定詞をともなう場合は zu 不定詞とするのが通例である。しかし中世期の言語を考察すると、以上のような移動を表す動詞は、不定詞や現在分詞また過去分詞とともにより自由に用いられており、上述した現代ドイツ語の例は用法の狭化ないし縮小を表している。中世期から現代語にいたる経緯を追いながら、その背景をさぐるつもりである。




    研究発表2

    発表者:平井 敏雄 氏(学習院大学)

    題目:中世語研究と現代語研究の接点を探る──『枠外配置』に見るドイツ語統語構造の歴史的変化──


    [発表要旨]

     古高ドイツ語・中高ドイツ語には、導入辞を伴う従属文において、動詞末尾配置(V/E)を示さない文が広範に見られる(例:dhazs dher selbo gheist ist got「この霊が神であるということ」(Isidor)。下線部が定動詞)。現代ドイツ語では、文の右の枠の外に構成素があらわれるこの構造は「枠外配置」と呼ばれ、V/Eという原則に対する一種の例外的な現象と見なされている。本報告では、古高ドイツ語・中高ドイツ語におけるこうした語順を、枠外配置の一種であると仮定し、Isidor(古高ドイツ語)・Tauler(中高ドイツ語)をサンプルに、現代ドイツ語とは異なるその出現の条件を明らかにすることを試みる。




    研究発表3

    発表者:嶋﨑 啓 氏(東北大学)

    題目:他動詞の反使役化の諸相──再帰動詞と他自動詞を中心に──


    [発表要旨]

     現代ドイツ語において sich öffnen のような再帰動詞と brechen のような他自動詞は、どちらも他動詞構文の対格目的語が再帰動詞および自動詞構文の主格主語になるという点で共通する。しかし歴史的に見ると、再帰動詞においては主語はもともと「人間」に限定されていたのであり、「人間」のような内在的力を持つものの変化の表現から内在的力のない「物」の変化の表現へと意味拡張が行われて、「物」が変化の対象になることが可能になったのに対し、他自動詞においては、随伴動詞や相互動詞を除けば、変化の対象は典型的には「物」であったという違いがある。本報告は、そのような違いが現代語における再帰動詞と他自動詞の意味的相違にも反映されていることを示す。


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    第58回例会(研究発表会)

    日時:2005年12月10日(土) 13:30~17:30
    場所:京都ドイツ文化センター

    <<内容>>

    「高等学校における語学教育」


    司会者:桐川 修 氏(奈良高専)

    発表1

    発表者:田原 憲和 氏(慶風高等学校非常勤講師)

    題目:国語教育から日本語教育へ


    [発表要旨]

     高等学校における本来の国語教育は,読み書き能力の向上はもちろん,言語感覚を磨くということを目標に掲げている。しかし,基本的な読み書き能力が不足している生徒に対しどう対処するべきか。「国語」を教えるという感覚から「日本語」を教えるという感覚へと意識を転換する必要性を述べる。




    発表2

    発表者:仙崎 裕右 氏(大阪府立加納高等学校教諭)

    題目:高等学校における英語教育の現状――中学校と大学とのはざまで──


    [発表要旨]

     2006年問題、2007年問題とも呼ばれる、新学習指導要領世代の入学、大学への全入時代の到来を目前に控え、大学側の焦りを反映するかのように、様々な改革がなされているが、そのあおりを受けつつ、また、社会の要求にもこたえようとする形で、高校においても英語教育をとりまく環境はめまぐるしく変わってきている(高校にあっても、進学校とそうでない学校との間にずいぶんと温度差があるのも事実である)。本報告では、大学に進学する者がほとんどいない高校の教師という立場ではあるが、現場にいる者の一人として、高校の英語教育の現状(の一端)を紹介したい。




    発表3

    発表者:菅 利恵 氏(大阪府立旭高等学校非常勤講師)

    題目:国際教養教育の一環としての第二外国語教育


    [発表要旨]

     大阪府立旭高等学校の国際教養科では、現在第二外国語の授業が六ヶ国語開講されている。このカリキュラムは「世界的視野を持ち、互いの文化を尊重しながら、平和で豊かな国際社会に貢献できる人材の育成を目指す」という国際教養科全体の理念を基礎としており、コミュニケーション能力を高め、国際理解を深めることを目的としたものである。この方針に基づき、ドイツ語の授業においては、ドイツ語の基礎的知識と共に、ヨーロッパ文化を知る足がかりとしてドイツの文化や歴史を伝えること、また何よりも生徒たちのコミュニケーション意欲を高めることが目指される。こうした授業をより実りあるものにするためには、高校教育のための新しい教材、教科書が必要である。




    2.自由討論会

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    第59回例会(研究発表会)

    日時:2006年5月27日(土) 13:30~17:30
    場所:京都ドイツ文化センター

    <<内容>>

    1.研究発表

    発表者:尾崎 久男 氏(大阪大学)

    題目:初期近代ゲルマン語の同族目的に対する許容態度
    ──「詩編」および『新約聖書』の用例を中心に ──


    [発表要旨]

     これまで『聖書』の文体の大きな特色の一つとして「反復」が挙げられてきた。この技巧はもちろん古典語に限定されず、ゲルマン語本来の修辞法でもあったであろうが、そこには同一(あるいは同類)語句の繰返しによって、意味の強調などの文体的効果を与え、同時に文にリズム(特に頭韻の働き)を加えようとする試みがかなり顕著に認められる。この反復の機能はまた、『聖書』特有の慣用表現とされる同族目的語の語法にも現れていると考えられる。  従来から英語聖書欽定訳(1611)には同族目的語の豊富な資料が見出され、貴重な宝庫となっていると指摘されてきた。ところが、欽定訳の90%は基本的にティンダル訳(1526)によるものと考えられている。また、ティンダルはイギリスを逃れて、ドイツのヴィッテンベルクで翻訳を続けたが、彼の翻訳にはルターの影響が大きい。さらに、オランダ語聖書公定訳 (1637)やデンマーク語聖書クリスチャン3世訳(1550)などもルター訳(新約1522;旧約1534)の影響を強く受けている。  本発表は2つの部分から成立っている。前半ではまず、後半において行う同族目的語の統語考察の基礎となるべきいくつかの点について述べる。すなわち、中世ゲルマン語聖書における同族目的語を概観して、その特異的な統語的特徴を明らかにする。さらに後半部は、16、17世紀の生んだ、英語・ドイツ語・オランダ語による『聖書』翻訳の中で同族目的語に対する、それぞれの許容態度を考察しようとするものである。 なお、今回の調査では言語資料としてノートカーによる「詩編」や『ヴァハテンドンク詩編』、およびウルフィラによるゴート語聖書や『タツィアーン』も扱うため、特に「詩編」と『新約聖書』の翻訳における同族目的語の用例を中心に調査を行った。




    2.研究発表

    発表者:柴崎 隆 氏(金城学院大学)

    題目:スイス・ドイツ語方言の言語的特徴に関して


    [発表要旨]

     スイスのドイツ語圏はまさにヨーロッパにおけるダイグロシア(2変種併用)の典型的な地域とされてきた。社会言語学者ファーガソン(Ferguson)の定義によれば、ダイグロシア(Diglossie)とは同一言語の2変種(上位変種と下位変種)が相互補完的にそれぞれの社会的機能に応じて使い分けられている状況を指している。すなわちスイス人同士の日常の会話では一般的に(地域ごとに多少なりとも異なる)スイス・ドイツ語方言が用いられるのに対し、一方で学校の授業用語や車内放送等、公的度が高い場合と、公私の区別なく文章語一般はスイス版標準ドイツ語が用いられてきた。しかし1960年代以降の第五次の方言化の波(Mundartwelle)以降、上位変種であるスイス版標準ドイツ語が本来占有してきた領域まで下位変種であるスイス・ドイツ語方言が侵食しつつある状況にあり、この21世紀初頭は、これまで以上に方言がスイスにおける活力あるコミュニケーション手段となっているとまで言われている。スイス・ドイツ語方言のこうした隆盛にもかかわらず、残念ながら日本においてはドイツ語のこの変種に関してあまり知る機会がないのが実情といえよう。今回は谷間の数ほどあると揶揄されるスイス・ドイツ語諸方言の中で最も話者数が多く(スイス国民の約1/4)、スイス最大の都市として経済的・文化的にも影響力のあるチューリヒのドイツ語方言(Züritüütsch)を中心に、スイス・ドイツ語方言に広く観察される言語的特徴の一端を紹介するとともに、中高ドイツ語の直接の後裔としてのアレマン方言の代表格ともいえるスイス・ドイツ語方言を、スイスで市販されている教材を用いて聴覚的にも体験してもらう。




    3.定例総会



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    第60回例会(研究発表会)

    日時:2006年10月7日(土) 13:30~17:30
    場所:キャンパスプラザ京都6階 京都産業大学サテライト第2講習室

    <<内容>>

    発表1

    発表者:工藤 康弘 氏(関西大学)

    題目:接続法の時制の一致について ――初期新高ドイツ語の場合──


    [発表要旨]

     私が学校で英語を習ったとき、間接話法では時制の一致に注意しろとやかましく言われた。翻ってドイツ語の授業では時制の一致を習ったことも、また教えたこともない。「ドイツ語に時制の一致はない」という言葉をときどき耳にするが、果たしてこれは正しいのであろうか。英語の間接話法では主として直説法が用いられ、そこに時制の一致がある。これに対してドイツ語では直説法と接続法2つの手段があり、前者では英語と同じ時制の一致があると思われる。接続法の場合、1式を現在形、2式を過去形と呼ぶならば、時制の一致はない。つまり主文の時制とは無関係に、1式または2式を選ぶことができる。私たちが「英語には時制の一致があり、ドイツ語にはない」と言うとき、英語の直説法とドイツ語の接続法というまったく別次元のものをいっしょにしているのではないだろうか。  本発表の主眼は接続法における時制の一致が初期新高ドイツ語期にどの程度存在しているか、あるいは崩れているかを調べることにある。私はこれまで接続法の用法、未来形とwollen/ sollen の関係、würde 文の発達といった研究の副産物として、時制の一致にも折に触れて言及してきた。すなわち大雑把に言って初期新高ドイツ語には時制の一致が機能しているようである。このことをより精密に裏づけ、さらにこの時制の一致が崩壊するプロセスまでを明らかにするため、ある特定のテキストではなく、複数のテキストを含んだコルプスを用いた調査を行ないたい。本来なら間接話法や目的文等、時制の一致が関わる文タイプを出発点にすべきであるが、今回使用するボン・コルプスのように、デジタル化された資料から検索機能によって間接話法を集めるのは容易ではなく、何らかの工夫が必要である。今回はこの方法をとらず、かつて未来形との関わりで収集したwerden のうち、利用されずにいた多くの受動文を用い、それらが間接話法等に現れたケースを分析する。




    第28回言語学リレー講義

    講師:下宮 忠雄 氏(学習院大学名誉教授)

    題目:ヨーロッパ諸語の中のドイツ語の位置




    発表2

    発表者:増田 将伸 氏(京都大学院生)

    題目:『どう』の語用論的分析 ――会話中の質問の用法から――


    [発表要旨]

     様態の不定副詞である「どう」は、興味深い語用論的問題をはらんでいる。質問、感嘆に加えて「どう~か」「~かどうか」などの形で不定の叙述にも用いられる点は、各発話行為間の連続的な関係を体現している。また、質問に用いられる際には、指す内容があまり限定的でないために、文脈依存的な性質を強く持っている。本発表では、『日本語話し言葉コーパス』の対話例で質問に用いられている「どう」の用例を主に取り扱い、会話分析の手法で分析する。「どう」を用いた質問をめぐるやり取りが形式や会話中の位置によって異なる様子を確認し、そこに表れる会話参与者の相互行為の検討を通じて、会話の中での「どう」の用法を記述する。「どう」は日本語の副詞であるが、日本語学にとらわれず語用論の視座から発表を行う。




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    第61回例会(20周年記念コロキウム)

    日時:2006年12月3日(日) 13:00~16:30
    場所:京大会館210号室

    <<内容>>

    「これからのドイツ語学・言語学を考える」
    ――「京都ドイツ語学研究会」発足20周年を記念して――

    司会者:湯浅 博章 氏(姫路獨協大学)



    1. パネリストからの提言

    パネリスト:

    西本 美彦 氏(関西外国語大学)

    乙政 潤 氏 (京都外国語大学)

    深見 茂 氏 (大阪市立大学名誉教授)

    武市 修 氏 (関西大学)





    2. ディスカッション

    [コロキウム要旨]


     「京都ドイツ語学研究会」は1986年12月13日に発足しました。発起人はわずか5人で、当初の入会者数は22人でした。この研究会が実質的な活動を始めたのは1987年からでありますので、本年の12月は発足20周年という年に当たります。第1回例会に関する報告書は翌年の1987年に「京都ドイツ語学研究会会報 第1号」としてまとめられています。
     会報第1号の1ページ目に記された『「京都ドイツ語学研究会」発足にあたって』という短い文章の出だしは次のように書かれています。「京都には今まで、ドイツ語学に関心をもつ研究者が集い合ってお互いが研究交流をしたり、学術資料を提供し合う場がなく、研究活動も孤立化する状態が続いてきました。(中略)ドイツ語学、ドイツ語教育およびこれらに関する分野の研究に関心をもつ研究者、大学院生らが集まり、相互の研究交流を深めることによって、それぞれの研究の充実を目指すことができるような会を結成しようとする声が聞かれていました。・・・」
     本研究会はこのような趣旨で発足したのでありますが、その後の20年間に会員数も増加し、現在では100人を超す規模に発展いたしました。この20年間の研究会活動は多岐にわたり、ドイツ語学やドイツ語教育に限らず、他言語研究およびなんらかの形で言語に関係する領域にも積極的に取り組むと共に、外国の研究者の講演会を頻繁に開催するなどの活動もしてきました。また例会で発表された言語理論や研究領域分野も伝統文法から比較言語学、生成文法、ヴァレンツ理論、モンタギュー文法、語用論、テクスト言語学、認知言語学などなど数え切れないほど多様でありました。本研究会の活動はきわめて活発な時期と、時には幾分低迷気味であった時期がありました。しかしともかく20年の間この研究会が消滅することなく続いたという事実は、先に紹介しました発足時の趣旨が今でも有効であることを証明するものであると思います。
     しかしながら、ドイツ語を取り巻く昨今の状況はドイツ語教育に限らず、ドイツ語学、ドイツ文学そのほかのドイツ関連の研究全般にとって極めて憂慮すべき危機感を募らせています。このような現実の中、今回のコロキウムでは過去20年間の本研究会の活動成果を評価しつつも、それに甘んじることなく、現状を冷静に分析し、従来の研究の視点を再検討すると同時に、今後のドイツ語学・言語学ひいてはドイツ研究一般に関する研究を深めていくためには、どのような理論的・方法論的なアプローチが求められるかについて考えてみたいと思います。ドイツ語学、ドイツ文学、言語学の分野からの4名のパネリストによる発表を基に、自由に議論を交わすことによって、私たちが進むべき方向を探ることが出来ればと思います。


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    第62回例会

    日時:2007年5月26日(土) 13:30~17:30
    場所:京都ドイツ文化センター

    <<内容>>

    研究発表会

    司会者:齋藤 治之 氏(京都大学)

    研究発表1

    発表者:西野 由起江 氏 (京都大学大学院生)

    題目:女性名称におけるアイデンティティとイデオロギー
    ──「母性」という語をケーススタディとして──


    [発表要旨]

     女性名称が、男性名称に比べて一般的な人を表す語として使用されてこなかったことに着眼し、各時代の社会的な観念のパターンが付加され使用されてきたことを検討する。女性名称の問題点を指摘する先行研究の多くが、フェミニズム運動の一環として言語表現の是正に注目しすぎてきたことを指摘し、中立語の有用性を認めつつもドイツ語名詞の文法性まで中立語化することは行き過ぎた矯正であることを検証する。
     また、言語表現における性差が示す内容には、生物学的な性だけではなく役割としてのジェンダーも示すことに注目し「母性」という語のケーススタディをもとに女性性を表す語を分析する。本発表においては、ジェンダー・スタディーズの視点を用いて、語に含まれるアイデンティティとイデオロギー関係の解明を試みる。


    研究発表2

    発表者:田原 憲和 氏(大阪市立大学非常勤講師)

    題目:ルクセンブルク語における外来語について


    [発表要旨]

     ルクセンブルクの公用語の一つであり、唯一の国語であるルクセンブルク語は、これまで主として話しことばとして用いられていた。近年においては、徐々にではあるが書きことばとしても使用されるようになり、1999 年には新たな正書法が制定された。
     しかし、以前からルクセンブルク人の主要な書きことばとしてドイツ語が広く用いられており、そのうえ、元来ルクセンブルク語はドイツ語のモーゼルフランケン方言に属する言語である。ゆえに、本来のドイツ語式綴りとルクセンブルク語式綴りが併用されるなど、ルクセンブルク語正書法における外来語の取り扱いは複雑である。
     本発表では、ルクセンブルク語正書法を概観し、その中でもとりわけ外来語表記における諸規則・諸傾向に注目する。ルクセンブルク語正書法を通じ、ルクセンブルクにおけるドイツ語の役割についても考察する。




    研究発表3

    発表者:金子 哲太 氏(関西大学非常勤講師)

    題目:現在完了の「意味」について─―通時的考察にもとづいて―─


    [発表要旨]

     ドイツ語史において現在完了形が初出するのは古高ドイツ語においてである。主要な史的文法書や研究書では、この時期の原初的な出現例に見られる形態的・統語的特徴からこの形式が持つ構造的特徴を解き明かし、これを出発点にしてその時制・アスペクト的意味(用法)記述を行っている。
     ところでBrinkmannは古高ドイツ語に関する論考(1965)の中で、完了形の例に、まとめた(zusammenfassend)り、強調した(nachdrückend)り、また因果関係(Kausalität)を表したりする意味機能をみている。本発表では、彼の意味分析を捉えなおし、さらにこれを中高ドイツ語の例にも応用して、この形式に付随して現れると考えられる意味論的特徴について指摘したい。現在完了の意味論的分析と言えば、時制やアスペクトの観点からの分析が一般的であるが、それらとは異なる観点からのアプローチの可能性について議論し、時制研究の問題点や課題等も明確になればと思っている。


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    第63回例会

    日時:2007年9月15日(土) 14:00~17:30
    場所:京都ドイツ文化センター

    <<内容>>

    研究発表会

    司会者:河崎 靖 氏(京都大学)

    研究発表1

    発表者:大宮 康一 氏 (名古屋大学院生)

    題目:現代アイスランド語の格における言語変化について


    [発表要旨]

     現代アイスランド語は北ゲルマン語に属し、現代ゲルマン諸語の中でも保守的であり、形態的に文法性(男性、女性、中性)と格(主格、対格、与格、属格)を保持している。しかし、保守的ながらも格にまつわる言語変化が報告されている。その変化とは、いわゆる斜格主語に関わる与格置換(Dative Substitution)と主格置換(Nominative Substitution)、そして新たな受動態構文の“new” impersonal 構文の3つである。本発表は、最も近年に報告されている“new” impersonal 構文が与格置換と主格置換の影響による現象ではないかという可能性に着目し、それら3つの変化の相互作用について構文の観点から考察を試みる。



    第29回言語学リレー講義

    講師:在間 進 氏(東京外国語大学)

    題目:ドイツ語研究のあり方と方法論




    討論会

    題目:個別言語研究の成果と今後の課題




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    第64回例会

    日時:2007年12月15日(土) 13:30~17:30
    場所:京都ドイツ文化センター

    <<内容>>

    研究発表会

    司会者:金子 哲太 氏(関西大学非常勤講師)

    研究発表1

    発表者:長縄 寛 氏 (関西大学非常勤講師)

    題目:英雄叙事詩『クードルーン』に見られる定関係代名詞構文について


    [発表要旨]

     定関係代名詞derによって導入される関係文は、おおむね上位文中の名詞成分(=先行詞)をより詳しく説明する副文と理解されるが、中高ドイツ語期にはこのような用法の他にも様々なタイプの関係文が存在していた。例えば先行詞を自らに含み、その機能を兼ねるものや、関係代名詞の格が先行詞の格 (あるいはその逆) に合わせられる牽引(Attraktion)のケース、また関係代名詞によって導入された形式上の関係文が意味上の条件文(wenn einerの意)となることもまれにある。さらに中高ドイツ語期は、副文中の定動詞を後置させることによって主文中の動詞語順との区別をなすという規則が一般化する以前の中間段階にあたり、一般的に副文の定動詞は少なくとも主文の定動詞よりも後方に置かれていたようである。しかし『クードルーン』のような韻文作品では各詩行末の語が押韻に用いられるため、動詞以外の語によってこの位置が占められれば、特に短い関係文では主文の動詞と同様の語順を取らざるを得なかったという可能性もある。本発表では『クードルーン』に見られる定関係代名詞構文に関して、上で挙げたような諸特徴、問題点を、具体的に例を示しながら明らかにしたいと思う。



    研究発表2

    発表者:塩見 浩司 氏(関西大学非常勤講師)

    題目:ゴート語動詞接頭辞の意味に関して


    [発表要旨]

     ゴート語の動詞接頭辞を取り扱うに際して、これら接頭辞には単純動詞に語彙的な意味を与えるものと、ある一定の動作のあり方を与えるものがあるのはよく論じられるところである。例えば前者ならqiman(nhd. kommen) : gaqiman (nhd. zusammenkommen)、後者ならswiltan (nhd. im Sterben liegen) : gaswiltan (nhd. sterben)のような場合である。今回の発表では後者のものに焦点をあててゴート語動詞接頭辞に関していくつかの問題点を考えてみるが、ga-以外の接頭辞にも焦点をあててみたい。またそのほかに新約聖書の翻訳という観点からも多少の言及をすることになるだろう。



    研究発表3

    発表者:牧野 節子 氏(関西外国語大学非常勤講師)

    題目:音楽と言語―音楽と言語とのたえざる対決としての西洋音楽史―


    [発表要旨]

     西洋音楽における音楽と言語の関連について考察する際に、T.G.ゲオルギアーデスの著書『音楽と言語 (Musik und Sprache)』を避けて通ることはできないであろう。ゲオルギアーデスは『音楽と言語』の中で、ミサ作品を取り上げながら、二つの異質な音楽観がそれぞれお互いを主張しあうプロセスとして西洋音楽の歴史を解説している。その音楽観とは、「装飾しての音楽」つまり器楽的な考え方と、「言葉の具現としての音楽」という二つの態度なのである。
     本発表では実際の音楽例を用いて、上記の二つの音楽観が綜合されていくプロセスに焦点をあてながら、音楽と言語の関わりについて考察する。



    臨時総会




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    第65回例会

    日時:2008年5月31日(土) 13:30~17:30
    場所:京都ドイツ文化センター

    <<内容>>

    研究発表会

    司会者:齋藤 治之 氏(京都大学)

    研究発表1

    発表者:片岡 宜行 氏 (福岡大学)

    題目:動詞付加辞の機能について


    [発表要旨]

     ドイツ語の不変化詞動詞(分離動詞)に関する近年の研究では、不変化詞動詞が「動詞付加辞(不変化詞・分離前綴り)+動詞」という複合的なまとまりとして捉えられ、「前置詞句+動詞」などと平行的なものとして論じられることが多い。動詞付加辞が前置詞句と対応・競合するものであるならば、動詞付加辞を基礎動詞に付加することによって文の構造に変化が生じることになる。例えば den Zettel an die Wand kleben という句を不変化詞動詞を用いて den Zettel ankleben と言い換えると、前置詞句が消失し、項が一つ減少することになる。本発表では、このような文構造の変化を中心に、動詞付加辞のもつ機能について考察したい。



    研究発表2

    発表者:阿部 美規 氏(富山大学)

    題目:正書法改革の改革について―分かち書き・続け書き規則の場合―


    [発表要旨]

     ドイツ語のいわゆる新正書法は、「正書法改革の改革」とまで呼ばれた大幅な規則改変を経て、2007年8月1日、当初の予定より遅れること2年の後にようやくドイツにおける正書法上の唯一の拠りどころとなるに至った。これをもってドイツ語正書法をめぐる問題は一応の解決をみたわけであるが、一方で、度重なる規則変更の結果、最終的にどのように綴るのが正しいのか、多くの人にとって必ずしも明確ではなくなったこともまた事実であろう。このような現状に鑑み、本発表ではドイツ語新正書法規則の中でも特に混乱を極めた「分かち書き・続け書き規則」が、新正書法導入以後現在に至るまで、いかなる理由からどのように変更されたのか、またそれによってどのような問題が解決されたのかなどの点を明らかにすることで、正書法に纏わる混乱ないし不安の一端を解消することを試みたい。



    定例総会

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    第66回例会

    日時:2008年9月20日(土) 13:30~17:30
    場所:京都ドイツ文化センター

    <<内容>>

    研究発表会

    司会者:河崎 靖 氏(京都大学)

    研究発表1

    発表者:井上 智子 氏 (京都大学院生)

    題目:心態詞 dochの歴史的考察 ―中高ドイツ語を主に―


    [発表要旨]

     心態詞は、通常ドイツ語で文法カテゴリーと見なされるよりむしろ、話者の心的状況を示す語彙カテゴリーとして扱われている。このような語彙カテゴリーは、対話を循環させるのに重要な役割を果たす。本発表では、現代ドイツ語において心態詞として多様に用いられながらも1970年以降コミュニケーション理論が発展するまで注目されてこなかった、とりわけ dochを取り上げ、歴史的に考察する。その際、中高ドイツ語の作品『哀れなハインリヒ』を中心に、dochがどのように使用されていたのか、文脈から観察すると共に写本での表れ方も考慮し、データを用いて実証的に検証したい。



    研究発表2

    発表者:安永 昌史 氏(フランクフルト=ゲーテ大学院生)

    題目:トカラ語とはいかなる言語か?
    ―ゲルマン,スラヴ,インド=イラン語等との言語特徴的な諸側面の対比による、
    その印欧語的性格の再描写―


    [発表要旨]

     中央アジア東部において千年以上前に話されていたトカラ語(A, B方言)は、他に同じ語派を形成する言語が確認されない、孤立した印欧語の一つである。これはすなわち、祖語を経由しなければ、トカラ語は他の印欧諸語との語源的な近縁関係を持たないことを意味する。しかしながら、それは他の言語から見てトカラ語が極端に異質であることを意味するのではない:トカラ語に見られる幾つかの言語構造的な特徴が、語派の壁を越えて他の印欧諸語にも当然見られるのである。本発表では、トカラ語の音韻,形態,統語ならびに語彙的な特徴の幾つかを採り上げ、ゲルマン,スラヴ,インド=イラン語派等におけるそれらと対比することにより、トカラ語の印欧語的性格を今一度、見つめ直すきっかけとしたい。



    研究発表3

    発表者:尾崎 久男 氏(大阪大学)

    題目:英語における借用翻訳の通時的考察:dépendre dedepend ofdepend on か?


    [発表要旨]

     英語の歴史上、フランス語の影響は絶大であり、英語は単語レベルのみならず、句や節レベルまで借用してきた (後者の例として it goes without saying that (<cela va sans dire que) が挙げられよう)。確かに take part in に注目しても、類似表現がフランス語 (prendre part á) に存在するため借用翻訳のようである。ところが、通時的に古英語 dael-niman (ドイツ語 teil-nehmen を参照) も考慮すべきであり、英語本来の語法をフランス語の単語によって置換したに過ぎない。結局、ある表現が別の言語の借用翻訳だという結論は容易に導き出せなくなる。本発表では、英語における動詞句レベルの借用翻訳を通時的な観点から再考してみたい。



    臨時総会




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    第67回例会(研究発表会)

    日時:2008年12月13日(土) 13:00~17:00
    場所:京都産業大学サテライト第2講習室(キャンパスプラザ京都6階)

    <<内容>>

    1.シンポジウム
    「ルクセンブルクの言語文化と言語意識」


    [シンポジウム要旨]

     ルクセンブルクはフランス語、ドイツ語、ルクセンブルク語の三言語を公用語とする多言語国家である。中でもルクセンブルク語は、1984年のいわゆる「言語法」によってその地位が確立された新しい言語である。大半のルクセンブルク人が母語とするルクセンブルク語は、元来、書きことばとして用いられることがほとんどなかったが、近年、児童文学を初めとする分野でルクセンブルク語の使用が増加している。
     現在、ルクセンブルクの人口の40%以上が南欧諸国出身者をはじめとする外国人である。さらに、多くの国際機関や国際企業がルクセンブルクに拠点を構えており、人口わずか45万人強のこの国は、日常的に多言語、多文化が接触し、共生している。
     このような独特な言語文化のこの国では、「ルクセンブルク人」としてではなく、むしろ「ヨーロッパ人」であるというアイデンティティを持つ人の割合が他の欧州諸国に比べてはるかに高い。しかし、一方では、外国出身者を含めた国民の統合の象徴として、ルクセンブルク語の存在意義は高まっている。
     本シンポジウムでは、19世紀初頭から現在までのルクセンブルクの言語文化と言語意識について、それぞれの時代における言語文化を異なる視点から考察する。その上で、ルクセンブルクないしルクセンブルク人におけるルクセンブルク語の位置づけと、その根底に流れるルクセンブルク人意識について明らかにしていくことを主な目的としている。



    基調講演

    講師:ジャン・クロード・オロリッシュ 氏 (上智大学副学長)

    題目:現代のルクセンブルクにおける言語文化とルクセンブルク人意識


    [要旨]

     ルクセンブルクの地では、歴史的に見てもさまざまな文化が出会い育まれてきた。本講演では、とりわけ19世紀以降のルクセンブルク文化とルクセンブルク人意識について紹介し、ルクセンブルク人アイデンティティ形成の背景について述べる。





    報告1

    報告者:田原 憲和 氏(大阪市立大学非常勤、大阪市立大学UCRC研究員)

    題目:19世紀におけるルクセンブルク語の「発見」とディックス・レンツ正書法


    [要旨]

     ルクセンブルク語は元来モーゼルフランケン方言に分類されるドイツ語方言の1つであるが、19世紀前半になりいくつかの方言文学が生まれた。本発表では、ルクセンブルク語正書法策定に際して生じた言語観を巡る論争から、当時の言語意識について探る。





    報告2

    報告者:小川 敦 氏(一橋大学院生)

    題目:第二次世界大戦以降のルクセンブルク語とルクセンブルク人意識


    [要旨]

     ルクセンブルクにおける言語意識には、19世紀終わりから今日まで一貫して、多言語主義と母語意識という2つの方向性が見られる。本発表では、ナショナリズムとともに母語意識の高揚が見られた第二次大戦後の言語意識の特異性と連続性について考察したい。





    報告3

    報告者:木戸 紗織 氏(大阪市立大学院生)

    題目:EUが掲げる言語理念とルクセンブルクにおけるその実践
    ― アイデンティティのグローバル化とローカル化 ―


    [要旨]

     EUは多言語主義の理念を掲げ、複言語教育を推進する施策を行っている。しかし、既にそれを実践しているルクセンブルクでは、グローバルなアイデンティティとローカルなアイデンティティが交錯している。本発表では、このアイデンティティの分裂と融合について考察する。





    報告4

    報告者:田村 建一 氏(愛知教育大学)

    題目:ルクセンブルクにおける語学教育の現状と問題点


    [要旨]

     ルクセンブルクでは三言語による学校教育が行われているが、国民の母語であるルクセンブルク語教育が不十分であること、外国出身者の子弟にとって負担が大きいことなどの問題点が指摘されている。本発表では、昨年に教育省がまとめた今後の「言語教育の指針」について考察する。





    2.全体討論



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    第68回例会(研究発表会)

    日時:2009年5月23日(土) 13:00~17:00
    場所:京大会館 S・R室

    <<内容>>

    1.シンポジウム
    Aspekte der Grammatikalisierung


    招待講演

    講師:Bernd HEINE 氏(Universität zu Köln)

    題目:Zwischen Diachronie und Synchronie: Grammatikalisierung im Deutschen.


    [要旨]

     Die Frage, wie menschliche Sprache erklärt werden kann, hat unterschiedliche Forschungsansätze beschäftigt. Für funktionale Sprachwissenschaftler ist vorrangig die folgende Frage von Interesse: Warum ist Sprachstruktur so strukturiert wie sie ist? Dieser Frage soll anhand von Beispielen aus dem Deutschen nachgegangen werden. Insbesondere wird dabei argumentiert, dass es nicht möglich ist, eine annähernd zufrieden stellende Antwort zu finden, wenn man sich auf eine synchrone Sicht der Sprachbetrachtung beschränkt. Vielmehr zeigt die Grammatikalisierungsforschung der letzten Jahre, dass die dynamischen Prozesse in der Interaktion zwischen Kognition und Kommunikation in bedeutender Weise die Strukturen der deutschen Sprache geprägt haben. Besondere Aufmerksamkeit soll in dem Vortrag die Beziehung zwischen nominalen und verbalen Strukturen der deutschen Grammatik finden.




    研究発表

    発表者:Nami KOMODA(薦田奈美) 氏(京都大学院生)

    題目:Eine Betrachtung des Bedeutungswandels aus Sicht der kognitiven Linguistik.




    研究発表

    発表者:Tetta KANEKO(金子哲太)氏 (関西大学非常勤講師)

    題目:Einige Bemerkungen über die Grammatikalisierung der Konstruktion "haben + Partizip Präteritum".




    研究発表

    発表者:Shuichi HONDA(本多修一)氏 (福岡大学院生)

    題目:Die Degrammatikalisierung des Präfixes "ge-" beim Partizip Perfekt―Am Beispiel der Perfektformen im Niederdeutschen―.




    研究発表

    発表者:Norio SHIMA(島 憲男)氏 (京都産業大学)

    題目:Vielfältigkeit der resultativen Konstruktionen im Deutschen: Ein Erklärungsversuch ihrer Genese.




    定例総会



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    第69回例会

    日時:2009年9月19日(土) 13:00~17:00
    場所:京都ドイツ文化センター

    <<内容>>

    研究発表会

    司会者:吉村 淳一 氏(滋賀県立大学)

    研究発表1

    発表者:富永 晶子 氏 (京都大学院生)

    題目:ドイツ語母語話者と日本人学習者における発話上のリズム調整


    [発表要旨]

     本発表はドイツ語の「ドイツ語らしさ」を「音」の観点から考究する。その際に、ドイツ語の母語話者と日本人学習者を比較対象にして、フットで区分された各音節のリズム調整の実態を考える。
     発表者はすでに、発話上の「ドイツ語らしさ」を明らかにするひとつのアプローチとして、フット内の強・弱勢音節の持続時間を調整することで、各フット間の時間的均等が指向されるとする「時間補償」について考察し、「時間補償」を妨げる素因に日本人学習者の母語干渉を想定した。
     本発表では特定の名詞と分離動詞を用い、発話文の統語パターンによる持続時間の調整が、ドイツ語母語話者に及ぼす蓋然性を考察し、またドイツ語の修得に差がある日本人インフォーマントの相互間において、統語構造と母語干渉の関連が認められるかどうかについても論じる。



    研究発表2

    発表者:磯部 美穂 氏(大阪市立大学非常勤講師)

    題目:テクストにおける新造語
    ――名詞複合語の形成過程とその意味解釈――


    [発表要旨]

     新造語(Wortneubildung)とは、テクストにおいて即席に新しく形成される語で、また、その後他のテクストにおいて同一の意味で使用されることはなく、語彙として辞書に掲載されることのない語のことをいう。新造語は単に新しい事柄を命名するためだけに形成されるのではなく、その語形成はテクスト構成上重要な役割を担っており、テクスト理解の際にキーワードとなる概念の理解を助ける。本発表ではこうした機能に着目し、新造語の形成過程とその意味解釈の際における、新造語とコンテクストとの相互作用を例証する。造語法の中でも生産性が高く、構成語間における意味関係のモデル化が困難とされる名詞複合語を分析の対象とする。



    研究発表3

    発表者:Dieter Trauden 氏(京都大学)

    題目:Mehrsprachigkeit in mittelalterlichen Texten
    ―― unter besonderer Berücksichtigung des Schauspiels ――


    [発表要旨]

     Mehrsprachigkeit in literarischen Texten wird heute vor allem als Phänomen der Moderne und Postmoderne unter Stichworten wie Kolonialismus, Globalisierung und kultureller Hybridisierung diskutiert. Aber bereits im Mittelalter gab es viele Texte, die hauptsächlich lateinische, aber auch z.B. französische, italienische, tschechische oder hebräische Passagen bzw. Ausdrücke in ein deutschsprachiges Umfeld integrierten. Auf welche Weise dies (insbesondere in Dramentexten) geschah und was für Gründe und Intentionen sich damit verbanden, ist Thema dieses Vortrags.



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    第70回例会

    日時:2009年12月12日(土) 13:30~17:30
    場所:京都ドイツ文化センター

    <<内容>>

    研究発表会

    司会者:金子 哲太 氏(関西大学非常勤講師)

    研究発表1

    発表者:米田 繭子 氏 (京都大学院生)

    題目:類推作用と脚韻の関係―英語の音節構造を通して―


    [発表要旨]

     「類推」とは、ある狭い範囲内で多数の個人が自発的に同一の形態を創造し、後にそれが一集団に支持され、そしてその結び付きが強化されるにつれて社会全体に広まるという段階を踏む現象のことをいう。先行研究ではこの「類推」が動詞群の移行を促進したと捉えられているが、この現象について具体的な考察はなされてこなかった。ゆえに、何が原因となって類推作用が動詞群の移行に働いたのか考究していく必要がある。本発表では狭い範囲に生じる類推作用をみるため韻文に限定する。そして音節構造の観点から類推作用が引き起こされる原因を分析し、脚韻との関与を示す。さらにさまざまなテクストの脚韻箇所に注目し、時代的用例に基づいて動詞の移行に類推が機能していたことを明らかにすることが今回の研究発表の主たる目的である。



    研究発表2

    発表者:伊藤 亮平 氏(広島大学院生)

    題目:ドイツ中世抒情詩ミンネザングにおけるラインマル・デア・アルテの位置づけ


    [発表要旨]

     本発表では、12世紀後半のミンネゼンガー、ラインマル・デア・アルテを取り上げる。ラインマルは「高きミンネ」の発展に大きく寄与し、『トリスタン』の作者ゴットフリート・フォン・シュトラースブルクからも「ハーゲナウの小夜鳴鳥」と評された歌人であった。
     しかし、今日ではヴァルター・フォン・デア・フォーゲルヴァイデとの文学的論争におけるヴァルターの論争相手として言及されることが主である。そこで本発表では、主要なミンネゼンガーの作品を例に挙げながら、ミンネザングの変遷を概観するとともに、文体、ジャンル、内容の点からミンネザングにおけるラインマルの新たな位置づけを試みたい。



    研究発表3

    発表者:筒井 友弥 氏(京都外国語大学)

    題目:心態詞malの意味と用法について


    [発表要旨]

     本発表では、主に「命令」や「依頼」の発話で頻繁に使用される心態詞malに注目する。第一に、意味的な考察として、心態詞malの派生元である時間副詞einmal、およびその語彙形成に関係する頻度副詞としてのeinmalに焦点を当て、これまで扱われてこなかった心態詞malの基本的意味を抽出する。第二に、語用論的分析として、心態詞malが行為指示型の発話で用いられ、その「要求」に丁寧な性格を付与するという機能に着目し、アンケート調査の結果に基づいて、少なくとも話法助動詞könnenを伴う決定疑問文では、その機能が発揮されないことを示唆する。本発表の目的は、このような分析を通して、心態詞malの意味と用法を明らかにすることである。





    2.臨時総会



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    第71回例会

    日時:2010年5月22日(土) 13:30~17:00
    場所:京都ドイツ文化センター

    <<内容>>

    研究発表会

    司会者:桐川 修 氏(奈良高専)

    研究発表1

    発表者:工藤 康弘 氏 (関西大学)

    題目:16世紀ドイツ語における時制の一致について


    [発表要旨]

     ドイツ語史の古い段階では、副文に現われた接続法の時制を主文の時制に合わせるという、いわゆる時制の一致の規則があった。現代ドイツ語では主文と副文の間にこのような時制のつながりはない。時制の一致の規則がいつ、どのように崩れたのかを通時的に考察し、それがドイツ語にとってどういう意味を持つのかを明らかにするのが、本研究の最終目標である。その第一段階として本発表では16世紀の状況を明らかにしたい。古い言語では当該の動詞が接続法かどうかの判断が現代語よりいっそう難しい。このような形態論的な問題をどう処理するかについて論ずるほか、コルプスに関しても言及したい。



    研究発表2

    発表者:長友 雅美 氏 (東北大学)

    題目:Warum schreibt man heute nicht, wie man spricht?


    [発表要旨]

     「話すように綴れ"Schreibe, wie du spricht!"」とはアーデルング以来,ずっとドイツ語の表記に関係してきた人々にとっては,実現しえぬ願望である。「書記素Graphem(字母と呼ばれることもある)」と「音素Phonem」との間の様々な問題が山積しているとはいえ,少なくとも標準ドイツ語育成のため,あるいは教育的もしくは愛国的な意味で数多くの提案が正書法について出され,それに基づき,今日まで幾度も正書法辞典が刊行されてきた。もっともこのアーデルングの秀案が現実にはあまり考慮されていない理由(こと)も,ドイツ語史や辞書学史の文献を紐解けば理解できる。これはどんなに書記法を考えても,音と文字もしくは文字と音との厳密な対応が困難であることに起因する。
     各方言変種も含め,教育言語として取り扱われている標準語ですらも,話ことばのレベルともなれば様々な要因で多種多様に発音が変化しているのに対し,書きことばのレベルでは書記媒体によって当然固定化されあるいは標準化されてしまい,結果として話ことばの変化は綴りには反映されることはかなり稀である。極言すれば,どのような書記素を用いても,話ことばの発音を忠実に再現するのは不可能と言ってよいかもしれない。だとすれば,アーデルングの原則はあくまで「そうあって欲しい」という願いなのか。
     今回の発表では,教育言語としてのドイツ語ではなく,特定地域密着のドイツ語の方言変種を考えた場合,現実に耳にする音の集合体としての自然会話を記述し,印刷記述媒体として伝承していく場合に,一定の書記法つまり正書法が必要なのか,その場合何が問題となるのかいったことを標準ドイツ語の正書法改革の流れとともに,我々が再考するための契機となればよいと考える次第である。



    定例総会



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    第72回例会
    (共催: 関西ベルギー研究会)

    日時:2010年9月25日(土) 13:30~17:00
    場所:キャンパスプラザ京都6階 京都産業大学サテライト第3講習室

    <<内容>>

    研究発表会

    研究発表1

    発表者:石部 尚登 氏 (東京外大COE研究員)

    題目:ベルギーのゲルマン語圏とその『方言』観


    [発表要旨]

     ベルギーにはオランダ語圏とドイツ語圏の2つのゲルマン語圏が存在する。両者は歴史も人口規模も大きく異なっているが、「方言」の捉え方には共通点が見られる。本発表では、そうしたベルギーのゲルマン語圏に特有の「方言」観について、言語政策の観点から、とりわけオランダ語圏を中心として報告する。域内の「方言」は、フランス語圏ではフランス語とは異なる言語として承認しているが、オランダ語圏ではあくまでオランダ語の内的変種と認識されている。このような「方言」観が、「言語戦争」の中で対フランス語のために創り上げられた政治的なものであることを示し、現在ヨーロッパで主流となっている地域語復権の動きに及ぼしている影響を明らかにする。



    研究発表2

    発表者:黒沢 宏和 氏(琉球大学)

    題目:古高ドイツ語『タツィアーン』における翻訳手法
    dixerit: 直説法未来完了形か接続法完了形か―


    [発表要旨]

     『タツィアーン』は、830年頃フルダの修道院でラテン語から古高ドイツ語へと翻訳された。この『タツィアーン』のラテン語テクストには、時折、語尾が -eritで終わる動詞、例えばdixerit(不定詞 dīcere;「言う」)が現れる。この語形は、1)直説法未来完了形、2)接続法完了形の二つの解釈が可能である。一方、古高ドイツ語には、直説法であれ、接続法であれ、現在形と過去形しかない。古高ドイツ語『タツィアーン』において、この語形はどう翻訳されたのであろうか。本発表では、発表者が『タツィアーン』の中から収集した、直説法未来完了形か接続法完了形か、語形の上では判別できないラテン語の43例を基にして、これらの箇所が如何に古高ドイツ語へと翻訳されているかを検証したい。



    研究発表3

    発表者:檜枝 陽一郎 氏(立命館大学)

    題目:韻文から散文へ─『ライナールト物語』韻文版および散文版の比較─


    [発表要旨]

     1400年頃に成立した動物叙事詩『ライナールト物語』は、中世フランドル文学を代表する作品である。はじめ韻文で著されていたが、その後一般大衆向けの散文版『ライナールト物語』が1479年に成立した。本発表の目的は、この二つの物語を比較分析して、韻文から散文へとテクストが変わる際の脚韻の取り扱いを明らかにすることにある。韻文では語順を無理に変えたり、必要ではない語を加えたりして、文章を装飾する傾向がある。逆に散文では、添加された語を削除したり、語順を変えて文を作り直したりすることが必要となる。当時の散文作者がどんな基準で文を作り直したのかを知ることは、15世紀という韻文から散文への移行期を研究するうえで非常に重要だと思われる。



    2.臨時総会



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    第73回例会

    日時:2010年12月18日(土) 13:30 ~ 17:30
    場所:京都大学 楽友会館「大会議室」

    <<内容>>

    研究発表会

    1.研究発表

    発表者:湯淺 英男 氏 (神戸大学)

    題目:接続法第2式非現実話法の非現実性について
    ―モダリティと文法との関わり―


    [発表要旨]

     藤縄康弘(2009)は日本独文学会賞を受賞した、実現した事態を表わす接続法第2式の文Das hätte ich geschafft!を扱った論文に関わって興味深いことを述べている。左記の接続法の例や既成事実を表わす「残念」「嬉しい」表現のzu不定詞なども含め、「未然から既然」への転化においては、「文法(体系)とコミュニケーション(行動)の接点として、むしろ情こそ注目に値する」と。また日本語文法において尾上圭介(2001)は発見・感動の「水!」と存在しないものの要求としての「水!」を、「存在承認」と「存在希求」とに分類しているが、このことは「水」の出現する現在時・未来時という時間をモダリティが左右しているとも言える。本発表では、こうした発話に関わるモダリティが文法形式本来の意味に及ぼす影響を遠くに見通しつつ、さしあたり接続法第2式の非現実話法において実際に非現実な事態が表現されているのかどうかを具体的な事例に即して考察してみたい。




    2.シンポジウム:代名詞・虚辞・填辞 ― es をめぐるシンポジウム


    [シンポジウム要旨]

     ドイツ語の es という形式にはこれまで様々な機能が指摘され、また分類がなされている。このシンポジウムではとりわけ es の代表的な機能である代名詞・虚辞・填辞としての用法に注目し、各発表者が得意とする角度から、これらの用法への接近を試みる。
     es にはまず代名詞としての用法があるが、同じような環境で現れる代名詞には、das がある。それぞれの代名詞にはどのような機能上の相違が見られるであろうか。吉村は両者の機能上の違いに焦点を当て、一つの試みとして2格研究の立場から、中高ドイツ語の作品に見られる es/ez の機能について取り上げる。
     また es は一般に虚辞と見なされ、「非人称構文」の主語として囲い込まれてきたが、ドイツ語は虚辞 es の出現に関して格段に精緻な言語である。この虚辞 es は言語類型の観点から見ると、どのように位置づけられるであろうか。小川はドイツ語を出発点として他のヨーロッパ諸語や日本語などの対応物を比較検討し、ドイツ語の個別的特徴と並んでその背後にある普遍的特徴を探る。
     es にはさらに統語的な空所を埋める填辞としての用法も見られる。この es はしばしば純粋に統語的な意味での機能が指摘されてきたが、実際にこの形式を使用する際とそうでない場合との、意味上の差異は存在しないであろうか。宮下はコーパスならびにインフォーマント調査に依拠することでこの問題を扱う。
     以上の報告により、es の包括的理解を目指すきっかけを作り出すことが、本シンポジウムの目的である。




    報告1

    報告者:吉村 淳一 氏(滋賀県立大学)

    題目:『ニーベルンゲンの歌』における2格のesの機能について


    [要旨]

     本報告では人称代名詞と指示代名詞の機能上の違いに焦点を当て、2格研究の立場から、esの機能についてアプローチしたい。中高ドイツ語において、300以上の2格動詞が確認されている。しかし、現在では2格動詞は8個ほどにまで減少し、2格の動詞修飾的な機能は失われつつある。2格衰退の原因の一つに13世紀中頃に2格のesと4格のezに見られる音声上・形態上の区別が取り払われたことが挙げられる。しかし、実際には、例えば『ニーベルンゲンの歌』において、代名詞の2格は人称代名詞esで出現するよりも指示代名詞desで出現する方が圧倒的に多く、さらには人称代名詞の2格の別形sinが出現することさえもある。desは明確に2格であることを示すのに対して、esは形態上の区別を曖昧にするため、作品全体において出現する割合が低い。また、esは動詞や代名詞との融合形(例:sagts, dichsなど)で現れたり、完本としてみなされる3つの写本(A,B,C)において、ezで表記されたり、sinで表記されたり、写本によって表記上のゆれが多く見られる。そのような問題点を紹介しつつ、es とdesの機能上の違いがあるかどうかを検証することを試みる。




    報告2

    報告者:小川 暁夫 氏(関西学院大学)

    題目:いわゆる虚辞esの機能と類型について


    [要旨]

     いわゆる虚辞esについてはその様々な用法が指摘され、また分類がなされる一方で、Platzhalterやdummyといった統語的呼称で一律に「非人称構文」の主語として囲い込まれてきた経緯がある。本報告では「非人称構文」を通常の「人称構文」から硬直的に独立したものではなく、その相対性・連続性の中で特徴づけることを試みる。虚辞(expleo)が原義どおり「文を完全にする」ことを目的とするならば、そこには形式や統語のみならず意味や機能が問題となると予想されるからである。虚辞esの出現に関して格段に精緻なドイツ語を出発点として他のヨーロッパ諸語や日本語などの対応物を比較検討することで、言語類型における個別的特徴と並んでその背後にある普遍的特徴を解明する手掛かりとしたい。天候・気候述語、感覚・心理表現などの具体的事例に基づいて議論を組み立て、非人称構文についての再考、ひいては理解の転回を促したい。




    報告3

    報告者:宮下 博幸 氏(金沢大学)

    題目:いわゆるテーマの es の出現とその機能について


    [要旨]

     本報告では es の多様な用法のうち、テーマのes もしくは前域のes と呼ばれる用法を詳しく考察する。この es は天候などを表す非人称構文に現れる es とは異なり、前域に他の文肢が現れると不要となる。本報告ではこの es がどのような環境で出現するのか、この es を使用した場合とそうでない場合にどのような相違が生じるのか、またその機能はどのようなものかを明らかにしたい。報告ではまずこの es に関して文献でこれまで指摘されてきたことをまとめる。引き続きこの es を含むコーパスのデータを用いて、この es の実際の言語使用におけるいくつかのタイプを指摘したい。そしてこのデータが先行研究との関わりでどのように評価可能かを考察する。 さらにインフォーマント調査に基づき、この es の使用条件について、さらに精緻な分析を行いたい。これらの分析から、この es の機能の解明を目指す。最終的にこのes と他の非人称構文の機能との共通点(ならびに相違点)にも触れる予定である。





    ディスカッション



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    第74回例会

    日時:2011年5月21日(土)13:30 ~ 17:30
    場所:キャンパスプラザ京都6階 京都大学サテライト講習室(第8講習室)

    <<内容>>

    研究発表会

    研究発表1

    発表者:芹澤 円 氏 (学習院大学大学院生)

    題目:16世紀ドイツにおける印刷ビラの言語―受け手に合わせる、メディアに合わせる、メッセージに合わせる


    [発表要旨]

     メディア論で議論されていることのひとつに、そもそもメディアには受け手の態度ないし行動を変化させるほどの強い影響力があるのか(強力効果論)、それともメディアは受け手の態度を補強するにすぎないのか(限定効果論)ということがある。ヒトラー演説なるものの「威力」について語られることがしばしばあるが、はたしてヒトラー演説には本当に威力があったのだろうか。ヒトラー演説が「完成」したのはいつで、その後時代とともに「進化」を遂げたのだろうか。このような素朴な疑問について言語学者が答えを出そうとしたとき、どのようなアプローチが可能であるのかについて、いくつかの具体的分析を示しながら考えてみる。そのなかで見えてくる言語学者の限界をどうすれば克服できるのかについても言及する。



    研究発表2

    発表者:高田 博行 氏(学習院大学)

    題目:ヒトラー演説を分析してみる―言語学的アプローチの可能性と限界―


    [発表要旨]

     メディア論で議論されていることのひとつに、そもそもメディアには受け手の態度ないし行動を変化させるほどの強い影響力があるのか(強力効果論)、それともメディアは受け手の態度を補強するにすぎないのか(限定効果論)ということがある。ヒトラー演説なるものの「威力」について語られることがしばしばあるが、はたしてヒトラー演説には本当に威力があったのだろうか。ヒトラー演説が「完成」したのはいつで、その後時代とともに「進化」を遂げたのだろうか。このような素朴な疑問について言語学者が答えを出そうとしたとき、どのようなアプローチが可能であるのかについて、いくつかの具体的分析を示しながら考えてみる。そのなかで見えてくる言語学者の限界をどうすれば克服できるのかについても言及する。



    研究発表3

    発表者:成田 節 氏(東京外国語大学)

    題目:日独語の物語における視点 ― 原文と翻訳の対照を手がかりに


    [発表要旨]

     原文と翻訳で日独語の物語を読み比べると、個々の表現がもつイメージのずれなどは別としても、テキストから読み手が受ける印象が異なることが少なくない。たとえば芥川龍之介の「蜘蛛の糸」とその独訳Der Faden der Spinne (Jürgen Berndt訳)を読み比べると、日本語原文では極楽や地獄に読み手も居合わせて一連の出来事を眺めているような印象を受けるが、ドイツ語訳ではそのような臨場感はほとんど感じられない。このような違いはどこから生じるのだろうか。英語と日本語の「語り」の特質を考察する山岡實『語りの記号論』(増補版2005年)などを参考にし、特に時制と人称に注目してこの問題を考える。このようにして、以前から取り組んできた「視点」の考察を深めたい。



    定例総会



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    第75回例会

    日時:2011年9月24日(土)13:30 ~ 17:30
    場所:キャンパスプラザ京都6階 京都大学サテライト講習室(第8講習室)

    <<内容>>

    研究発表会

    研究発表1

    発表者:小川 敦 氏 (一橋大学研究員)

    題目:ルクセンブルクにおける言語意識と1984年言語法


    [発表要旨]

     ルクセンブルクにおいては、長年2つの言語意識がコインの表裏のように併存してきた。1つは母語ルクセンブルク語に対する単一言語性の意識、もう一つはドイツ語やフランス語を使いこなすという多言語性の意識である。1984年に成立した言語法は、ルクセンブルク語が事実上の公用語とされるなど、単一言語性の意識が際だった事象としてとらえることができる。本発表では、上記の2つの言語意識が1970年代および80年代にどのような形で対立し、言語法制定という結果に至ったのか、そしてそれまでは当然とされていた「三言語併存」がいかにして政治的な文脈に乗せられていったのかという言説について見ていきたい。また、今後の研究の展望として、言語法後の社会の変化や言語をめぐる環境の変化にも言及したい。



    研究発表2

    発表者:高須 万祐子 氏(京都大学大学院生)

    題目:格体系の弱化に伴う低地ドイツ語の統語的特徴―低地ドイツ語の分析的特徴―


    [発表要旨]

     本発表では、標準ドイツ語と対比することによって、格体系の弱化に伴い生じた低地ドイツ語の統語的特徴を考察し、低地ドイツ語が標準ドイツ語に比べてより分析的な言語であるということの証明を目標としている。
     現代の低地ドイツ語には、格は主格と斜格の2つしか存在していない。まず、前置詞に注目し、標準ドイツ語において与格・対格支配のある前置詞が、低地ドイツ語においてはどのように表現されるのかなどを調査していく。このように、低地ドイツ語と標準ドイツ語の差異を明らかにし、低地ドイツ語が標準ドイツ語に比べてより分析的な言語であるか、という本発表で目標としている問いかけに対し、実証的に説明していく。



    研究発表3

    発表者:柴崎 隆 氏(金城学院大学)

    題目:アルザス・ドイツ語(Elsàsser Ditsch)への招待―ミュルーズ・アルザス語の文法記述へのアプローチ―


    [発表要旨]

     フランス東部の国境の地、アルザス地方の言語事情については、ドーデの作品『最後の授業』を巡る論争を契機として一時期注目を浴びたが、この地で話されるドイツ語系方言そのものに関しては、ほとんどその実態は知られてこなかった。今回の発表の趣旨は、現在では存亡の危機に晒されていると言われるアルザス・ドイツ語、中でもその中核を成す低地アレマン(=上部ライン・アレマン方言)圏にあり、ストラスブールに次ぐアルザス第二の都市ミュルーズのアルザス語に焦点を絞り、隣接する諸方言との比較も踏まえて、その言語的特徴を検証することにより、中高ドイツ宮廷詩人語の直系の後裔たるこの方言の文法記述へのアプロ―チを行う。



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    第76回例会

    日時:2011年12月3日(土)13:30 ~ 17:30
    場所:京都大学吉田南1号館1共31(3階)

    <<内容>>

    シンポジウム

    「外国語学習のあらたな地平
    ― 慶應義塾大学SFCドイツ語教材開発研究プロジェクトの取り組み ―」


    報告者:

     藁谷 郁美 氏(慶應義塾大学)

     マルコ・ラインデル 氏 (慶應義塾大学)

     白井 宏美 氏(慶應義塾大学)

     太田 達也 氏(南山大学/慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問))

     倉林 修一 氏(慶應義塾大学)

     SFCドイツ語教材開発研究プロジェクトメンバー(慶應義塾大学学部生)



    [シンポジウム要旨]

     本発表は、慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)ドイツ語教材開発研究プロジェクトによるICTを利用した外国語学習環境構築の取り組みのコンセプトおよび具体的な実践例とその評価について報告するものである。
     「学習」に対する考え方の転換は、現代の外国語教育にも大きな変化をもたらしている。すなわち、教師主導の教示主義的な教育観にかわり、学習者中心の社会構成主義的な学習観のパラダイムが出現して以来、教師や大学に課せられた役割は、単なる効率的な「授業」の運営という枠を越え、学習者を取り巻く「学習環境」の構築という範疇にまで拡大した。従来こうした学習環境のデザインや運営を担当するのはもっぱら教職員であったが、本プロジェクトでは、SFCで言語を学ぶ学習者が自らSFCにおける外国語学習環境構築に向けて、デジタル学習教材開発や学習支援システムの構築に携わっている。
     このプロジェクト活動が核となり開発されてきた多様な教材作品には、これまでも多くの学習者・教員・研究員・他分野の研究室等が共同研究者として関わってきた。特に学習者間でおこなわれる協働学習が教材開発活動につながる部分は本プロジェクトの大きな特徴である。本発表では、教材開発だけではなく、実際の運用、評価までを担うこのプロジェクト活動とその機能を、研究と教育の両面から位置づける。さらに本プロジェクトから生まれた個別の学習教材作品を例に挙げ、それぞれの開発・運用・評価について説明する。
     ますます多様化する外国語学習環境のありかたに対し、本プロジェクトによる学習環境構築の事例を通して、あらたな視点を提言したい。


    ディスカッション




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    第77回例会

    日時:2012年5月26日(土)13:30 ~ 17:30
    場所:キャンパスプラザ京都6階 京都大学サテライト講習室(第8講習室)

    <<内容>>

    研究発表会

    研究発表1

    発表者:田中 翔太 氏 (学習院大学大学院生)

    題目:ドイツのTVメディアにおける『トルコ系移民のドイツ語』
    ―『役割語』という観点から―


    [発表要旨]

     ドイツでは現在、移民背景を持つ者が多く生活している。そのなかでも1960年代からドイツへ来たトルコ系移民は、ドイツの外国人人口でも群を抜き、最も多い割合を占めている。トルコ系移民の第二、第三世代が話すドイツ語は、トルコ系移民の出自を持つ文学者Feridun Zaimogluが出版した『カナーケの言葉:社会の周縁の24の雑音』 (1995) によりドイツ社会で注目を集めた。それを転換期として、元々ドイツ人から「ブロークンなドイツ語」としてネガティブな評価を受けてきた「トルコ系移民のドイツ語」が、coolであるなどと、ポジティブな評価を持って用いられるようになった。このようなドイツ社会からの評価の変化要因のひとつとして考えられるのが、2000年代初め頃からドイツのTVメディアにおいて需要が増加した、コメディ番組である。今発表では移民をテーマとしたコメディ番組Ethno-Comedyに注目し、伝える側と受け取る側のことばを観察する。その際、ドイツ社会において移民に課せられた言語的役割について、金水(2003)による「役割語」という観点から考察していく。



    研究発表2

    発表者:岩崎 克己 氏 (広島大学)

    題目:日本のDaFにおけるドイツ語基礎語彙へのアプローチ


    [発表要旨]

     基礎語彙選定の代表的な手法としては、頻度を選択基準とするコーパス言語学的なアプローチやコミュニケーション場面を想定し、そこでの重要性を選択基準とするコミュニカティブなアプローチなどがある。しかし、日本のドイツ語教育において基礎語彙を考える際には、「大学や高専等の教養教育の枠組みにおいて、主に学生を対象として週1~2回、1年間程度実施される」という日本のドイツ語教育の置かれた特殊事情も考慮する必要がある。それゆえ本発表では、上述の2つのアプローチのそれぞれによってドイツ語圏で作られた代表的な語彙リストである、Tschirner (2008) およびGlaboniat u. a. (2005) の語彙リスト、および発表者らが広島大学において作成した「広大語彙リスト(基礎語彙850語+追加語彙350語)」の3つを取りあげ、日本のドイツ語教育の文脈を踏まえたコミュニカティブ・アプローチの観点から、上記の3つの語彙リストに含まれる単語の比較を、主に動詞・形容詞・名詞に焦点を当てつつ行い、それぞれの特徴として何が言えるかを具体的に考察する。本発表では、「アプローチの違いによって上位語にはどんな違いが見られるか」、「頻度順アプローチのみに依拠しようとするとどのような問題が生じるのか」、「日本のDaFの文脈を考慮するとはどういう事なのか」、「基礎語彙の範囲と学習順序はどう関連するのか」等の問いについても論じる。



    定例総会



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    第78回例会

    日時:2012年9月29日(土)13:30 ~ 17:30
    場所:キャンパスプラザ京都6階 京都大学サテライト講習室(第8講習室)

    <<内容>>

    研究発表会

    研究発表1

    発表者:西出 佳代 氏 (北海道大学大学院生)

    題目:ルクセンブルク語における子音と音節構造


    [発表要旨]

     ルクセンブルク語は、1984年言語法によりドイツ語の一方言(西モーゼルフランケン方言)からルクセンブルク大公国の国語へと昇格した拡充言語である。同国家の国民アイデンティティを象徴するこの言語は、社会言語学的、すなわち言語外的な領域で関心を集めることが多い。一方で、その言語内的な特徴に関する研究はルクセンブルク本国でも十分に進められているとは言い難く、言語体系の記述を行った専門的な文献としては1950年代のものを参照する以外にない。しかし、言語として独立することで標準化が進み、外国人に対するルクセンブルク語教育の需要も高まる現在、再度体系記述を行うことは不可欠である。本発表は、その試みの一つとして音韻体系の中から子音と音節構造を取り上げ、記述することを目的とする。主に標準ドイツ語との比較の中で、歯茎・硬口蓋摩擦音 /ɕ/, /ʑ/ や、/ɡ/, /ʝ/ の異音などに着目しながら音素の記述を行い、音節構造の特徴から、語末音硬化の問題や、あいまい母音や歯茎閉鎖音 /t/ の音挿入現象に言及し、ルクセンブルク語音韻の特徴の一端を示したい。



    研究発表2

    発表者:阿部 美規 氏 (富山大学)

    題目:ドイツ語の映画字幕について


    [発表要旨]

     外国の映画やテレビ番組を上演・放送する際、従来専ら吹き替え(Synchronisation)が用いられてきたドイツにおいても、特に近年DVDが普及して以降、字幕(Untertitel)が積極的に利用されている。2009年にはEUがその行動計画に字幕を用いた外国語学習の推進を盛り込むまでになり、字幕は今後もますますその使用範囲を広げていくことが予想される。このような動向に並行して、翻訳研究においてもこれまであまり注目されることのなかった字幕が、とりわけ視聴覚翻訳(Audiovisuelles Übersetzen)の重要な一分野として認識され、ドイツにおいてもそれに関する調査・研究が進められつつある。本発表ではそれらの調査・研究の成果を紹介した上で、邦画に付されたドイツ語字幕に関して発表者が行った考察の結果を報告する。字幕翻訳にはさまざまな制約が伴うが、その制約の中で生まれたドイツ語映画字幕がどのような特徴をもつのか、その一端を明らかにしたい。



    第30回言語学リレー講義

    発表者:杉谷 眞佐子 氏 (関西大学)

    題目:「外国語としてのドイツ語」教育と「複数言語教育」の促進


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    第79回例会

    日時:2012年12月1日(土)14:00 ~ 17:00
    場所:京都大学 楽友会館(1階会議室)

    <<内容>>

    研究発表会

    研究発表1

    発表者:島 憲男 氏 (京都産業大学)

    題目:構文の拡張と動詞の「他動性・自動性」:構文ネットワークの観点から


    [発表要旨]

     ドイツ語の結果構文は、自動詞・他動詞の両領域に広がる構文と考えられるが、その用例が典型的なタイプから非典型的なタイプへと拡張するのに合わせて、構文の基底動詞や目的語は意味的・統語的性質を様々に変質させていく。これは、構文中に生起する基底動詞の観点からは他動詞から自動詞に構文を拡張させていると解釈でき、構文中の目的語からは基底動詞の直接的な意味制約から離脱して結果状態の描写を受ける主題としてより前景化されていくことを意味する。
     本発表では、ドイツ語文法に存在する他の諸構文(中間構文、同族目的語構文、結果目的語)と結果構文を比較することで、二律背反的な「自動性・他動性」を超えてその構文的連続性をとらえ、目的語の担う役割を生み出すメカニズムを考察してみたい。




    研究発表2

    発表者:清水 誠 氏 (北海道大学)

    題目:ドイツ語とゲルマン語の枠構造をめぐって


    [発表要旨]

     枠構造はドイツ語の文構造を特徴づける現象だが、ドイツ語の特徴とはいいがたい。枠構造は大多数のゲルマン語に共通し、それを欠くのは英語などごく少数にとどまる。ドイツ語の枠構造には独自の特徴があり、ドイツ語にはない特徴も他のゲルマン語には存在する。本発表では、ゲルマン諸語の例をもとに左枠の補文標識と右枠の動詞群について考察し、枠構造の成立と解消の要因にも言及する。補文標識の一致、補文標識の接語化と脱落、定形補文標識と不定形補文標識、zu-不定詞の省略、VO言語と枠構造、動詞群の統語論的・形態論的・意味論的配列、枠構造の成立と文モダリティー、枠構造の解消と連鎖動詞融合など聞き慣れない概念についても紹介したい。




    招待講演

    発表者:Armin Burkhardt 氏 (マグデブルク大学)

    題目:"Spielt Deutschland gegen den Abstieg?" Sportmetaphern in der politischen Sprache



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    第80回例会

    日時:2013年6月8日(土)13:30 ~ 17:00
    場所:キャンパスプラザ京都6階 立命館大学サテライト講習室(第1講習室)

    <<内容>>

    研究発表会

    研究発表1

    発表者:鈴木 智 氏 (立命館大学)

    題目:グローバルな人材とは?―ドイツ語授業における「ランデスクンデ学習」とその可能性


    [発表要旨]

     グローバル人材育成推進が議論される昨今、「使える英語」にばかり論点が置かれがちであるが、異なる文化的背景を尊重し理解に努める姿勢も不可欠である。語学力の習得だけでは、世界に通用する人材の育成とはいいがたい。これはドイツ語教育の現場にも当てはまる。 従来ドイツ語教育には「ランデスクンデ」という確立した領域があり、言語的知識の教示にとどまらない授業を重要視している。しかし生活や文化を扱った授業は学習者の興味を引きやすい一方で、ステレオタイプが再生産される危険もある。そこで本発表では、学習者自身が先入観やステレオタイプについて考え、また物事を別の視点から捉えることにより、「多様性への寛容さ」の育成を目指す授業の試みを紹介したい。学習者が持つドイツのイメージと学習歴の関係についても言及する。



    研究発表2

    発表者:片岡 宜行 氏 (福岡大学)

    題目:動詞不変化詞の付加による文の構造と意味の変化 ― 移動動詞を例に ―


    [発表要旨]

     動詞不変化詞(分離前綴り)は文成分の出現条件に関わり、文の構造と意味を規定する働きを持つ。不変化詞 hin を伴う移動動詞(hingehen, hinfahren など)が用いられた文では、空間規定が含まれず、物理的な移動というよりも移動を伴う何らかの行為が表されている例がしばしば見られる。一方、hinauf や hinaus のような二重不変化詞が動詞に付加された文では、空間規定が含まれ(もしくは想定され)、物理的な移動が表されている例が多い。

     ( ... ), und wir hatten Blumen gekauft und waren hingefahren. (H.Böll)
     Er nickte und ging die Treppe hinauf. (同上)

    本発表では、hin, hinauf, auf などのように相互に関連する動詞不変化詞の比較対照を中心に、動詞不変化詞と文の構造・意味の関係について考察したい。



    第31回言語学リレー講義

    発表者:家入 葉子 氏 (京都大学)

    題目:英語の否定構文研究とその応用


    [発表要旨]

     英語の否定構文の史的発達は、その変化が大きいことで知られている。古英語期(~1100年頃まで)には動詞の前にneを付加することで否定構文を作ったが、古英語の終わりごろから新たな否定の副詞notが導入され、動詞をneとnotではさむ形式が発達した。その後、neが脱落し、さらに助動詞doが導入されて今日に至っている。本発表では、構文の変化が著しい中英語期(1100年頃~1500年頃)から初期近代英語期(1500年頃~1700年頃)を中心に、まず否定構文の発達を概観する。さらに、否定構文の詳細を分析することで文献資料の性質を明らかにすることができる点にも議論を進めたい。否定構文の発達は文体、地域など、さまざまな要因と連動している。否定構文を一つの指標とすることで、文献とその背景との関連性を明らかにすることが可能となろう。



    定例総会



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    第81回例会

    日時:2013年9月21日(土)13:30 ~ 17:30
    場所:キャンパスプラザ京都6階 立命館大学サテライト講習室(第1講習室)

    <<内容>>

    研究発表会

    研究発表1

    発表者:金子 哲太 氏 (関西大学非常勤)

    題目:現在完了が用いられる環境について ― 古高ドイツ語、中高ドイツ語の例から ―


    [発表要旨]

     発表者は、数年来、現在完了形が古高ドイツ語、中高ドイツ語の作品においてどのような環境で用いられているのかを調査することによって、この時制形式の意味的発展を探ってきた。そしてこの形式が現在時制性を残したまま発展し、一方では時間・アスペクト的表示を生み出してきたが、他方でまた語用論的にも一定の慣習化が起きていたのではないかと考えている。それは、コンテクストが両時代を通じて現在的環境であるのが基本であるということと、中高ドイツ語において話法的環境での使用が増加するという分析結果にもとづくものである。
     本発表では、過去的環境に現われる現在完了の例を考察対象とし、これまで個別に扱ってきた「人称性」「時間性」「アスペクト性」、また「話法性」や文接続の観点から、より一般的と考えられる出現パターンとの違いを分析する。その都度の文意味を複数の角度から整理することで、拡充期にあった現在完了の意味用法について改めて考察したい。



    研究発表2

    発表者:吉満 たか子 氏 (広島大学)

    題目:外国語学習における学習ストラテジー ― 学生達は授業外でどのように学んでいるのか?―


    [発表要旨]

     近年、学習者の「自律」や「自学」が教育の世界ではキーワードとなっており、学習指導要領や大学のビジョンにもこれらが盛り込まれている。しかし、実際の授業で学生を観察すると、「勉強の方法が間違っているのでは?」と思うこともしばしばで、「自学」を叫ぶだけではなく、その方法を教員が示す必要性を感じることもある。
     本発表では、まず外国語授業における「自律した学習者」とはどのような学習者なのかということを確認し、広島大学で行ったアンケート調査の結果から、学生が授業外で外国語をどのような方法で学んでいるのか探る。それらを踏まえた上で、学生が効率よく外国語を学ぶために、教員は何ができるのかを考えたい。



    研究発表3

    発表者:神竹 道士 氏 (大阪市立大学)

    題目:ドイツ語<r>音の表記方法と規範意識の変化


    [発表要旨]

     ドイツ語の音には、母音化現象も含めてさまざまな異音が存在することは周知の如くである。ドイツ語発音辞典においても、Th.Siebsの舞台発音にみる理想規範(Idealnorm)からDuden第6巻の発音辞典における使用規範(Gebrauchsnorm)へと規範の概念規定が移り変わると同時に、この音の表記方法も大きく変わってきた。独和辞典の表記方法においても、IPA(国際音声字母)を用いた統一的表記から、発音記号とカナ表記の併記あるいはカナ表記のみによる記述へと推移している。音と辞書の表記方法からみえるドイツ語標準発音の規範意識の変化について、特に外国語としてのドイツ語を教える者の立場から論じてみたい。




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    第82回例会

    日時:2013年12月14日(土)13:30 ~ 17:30
    場所:キャンパスプラザ京都6階 京都大学サテライト講習室(第8講習室)

    <<内容>>

    研究発表会

    研究発表1

    発表者:安田 麗 氏 (大阪大学)

    題目:ドイツ語音声における母音/i/ /u/ /y/の生成について


    [発表要旨]

     外国語の学習において,目標言語を母語の様に完璧に習得することは難しい。特に発音に関しては,学習者の母語の音声的知識や音韻体系が干渉し,目標言語の発音習得を困難にしたり,外国語訛りとして表れたりすると言われている。 本発表では、日本人ドイツ語学習者のドイツ語音声を対象とし,母音/i/ /u/ /y/がどのように発音されているのかを実験音声学的手法を用いて観察した。日本人の発音の特徴やドイツ語を発音する際に特に注意すべき点を明らかにすることで,今後の効率的なドイツ語音声指導への応用について考えたい。



    研究発表2

    発表者:大喜 祐太 氏 (京都大学院生)

    題目:スイス式標準ドイツ語における非人称存在表現の考察 ―es hat と es gibt の用法比較から―


    [発表要旨]

     スイス式標準ドイツ語 (Schweizerhochdeutsch) には、標準ドイツ語 (Hochdeutsch) で一般的に使用されている geben を用いた es gibt 非人称存在表現だけでなく、 haben を用いた es hat 非人称存在表現がある。本研究の目的は、スイスの標準変種であるスイス式標準ドイツ語 (Schweizerhochdeutsch) における、非人称存在表現の用法 (es hat vs. es gibt) を明らかにすることである。本発表では、まずコーパスの用例を抽出し、各表現の副詞的付加語・実主語の性質などについて検討する。つづいて、スイスドイツ語における es gibt と es hat の使い分けを、アンケート調査を中心に考察する。最後に、スイスドイツ語と周辺言語 (標準ドイツ語もしくはフランス語など) の用例と比較し議論してみたい。



    研究発表3

    発表者:熊坂 亮 氏 (北海学園大学)

    題目:スイスドイツ語の動詞群について


    [発表要旨]

     スイスドイツ語のほとんどの方言において動詞群は、支配される下位の動詞が不定詞であるか過去分詞であるかによって異なる語順をとる。すなわち、支配される動詞が不定詞であれば、それを支配する上位の動詞の後(右側)に置かれるが(チューリヒ方言:das er schwèèr mues1 schaffe2/標準ドイツ語:dass er schwer arbeiten2 muss1)、過去分詞であれば、上位の動詞の前(左側)に置かれる(チューリヒ方言:das er schwèèr gschafft2 hät1/標準ドイツ語:dass er schwer gearbeitet2 hat1)。本発表では、スイスドイツ語の動詞群の構造的特徴について共時的および通時的観点から概説するとともに、上述の差異の要因の一つとしての、過去分詞の形容詞的性格に言及する。




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    第83回例会

    日時:2014年5月31日(土)13:30 ~ 17:30
    場所:キャンパスプラザ京都6階 京都大学サテライト講習室(第8講習室)

    <<内容>>

    研究発表会

    研究発表1

    発表者:薦田 奈美 氏 (同志社大学非常勤)

    題目:借用語の外来性-Fremdheit zwischen Lehnwort und Fremdwort-
    17世紀以降のフランス語からドイツ語への借用語を例として


    [発表要旨]

     語借用は、音韻論的・形態論的・書記素論的な側面において、どの程度、自言語に融合(integrieren)しているかに基づいて、外来語と借用語に区別される。古い借用であれば基本的には融合の程度は高くなるが、時間の経過だけがその基準とはならない(Keks-Kekse/Tempus-Tempora)。故に、どの程度融合すれば借用語として扱われるべきかを決定する基準が求められる。本発表では、Volland(1986)による17世紀以降のフランス語からのドイツ語への借用語の考察を基に、音・文字・形態のTransferenzとIntegrationの区分に、新たに意味的な区別(Semantische Integration)を加えることで、外来語と借用語の線引きを行う基準を明確化することを目的とする。具体的な方法として、当該語彙の借用後の意味変化について、Blank(2001)の挙げている意味変化タイプとその基盤となる連想関係を用いて考察を行うものである。



    第32回言語学リレー講義

    発表者:新田 春夫 氏 (武蔵大学)

    題目:新高ドイツ語の成立過程に関する近年の研究動向 


    [要旨]

     Werner BeschはGrimmelshausens ‚Simplicissimus‘ – Das zweite Leben eines Klassikers. 2012において、東中部ドイツ語が東上部ドイツなどの影響も受けつつ、16世紀中葉には中部ドイツに普及し、17世紀中葉には北ドイツにまで浸透し、18世紀中葉には上部ドイツをも席巻することによって、全ドイツに広まり、新高ドイツ語文章語として成立したという、成立の時期的段階を提示した。この発表では、主にBesch2003にもとづいて、これまでの新高ドイツ語の成立過程に関する理論と彼のAusgleichstheorieを振り返り、次いで、近年の研究動向を紹介し、研究の問題点と課題を検討する。最後に、発表者による、方言区分、宗派などの視点にもとづいて選んだ、いくつかの資料の分析を例示する。



    定例総会



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    第84回例会

    日時:2014年9月20日(土)14:00 ~ 17:00
    場所:キャンパスプラザ京都6階 立命館大学サテライト講習室(第1講習室)

    <<内容>>

    研究発表会

    司会者:金子 哲太 氏(関西大学非常勤講師)

    研究発表1

    発表者:筒井 友弥 氏 (京都外国語大学)

    心態詞 jaに関する一考察 ― 話法詞 vielleichtとの共起をてがかりに ―


    [発表要旨]

     平叙文における心態詞 jaと話法詞 vielleichtの共起では、命題の事実性(既知性)を表明する jaの機能と、事実の可能性を表明する vielleichtの機能において、意味的な相殺を伴い使用に齟齬をきたすと考えられる。しかし、実際には、例えば „Du hast ja vielleicht Recht.“といった文が多く観察され、日常会話において支障なく用いられる。本発表では、最初に当該の文構造に関する先行研究を紹介し、その見解の問題点を指摘したうえで、続けて妥当な解決策を模索する。その際、心態詞 jaの既知性に焦点を当て、主に jaの表す含意を考察することで、jaと vielleichtの共起に見られる現象に可能な解釈を示すことが目的である。それにより、心態詞 jaの新たな用法を見出す試みとしたい。



    研究発表2

    発表者:藤原 三枝子 氏 (甲南大学)

    題目:大学における基礎ドイツ語学習者の動機づけと教材との関係性 


    [発表要旨]

     第二言語習得の動機づけ研究は、その先駆者であるGardner、 R.C.らの社会心理学的アプローチから、90年代以降、教育実践と直結した方向へシフトしたが(e.g. Crookes & Schmidt 1991; Dörnyei 2001; Skehan 1989)、管見の限り、ドイツ語教育ではこの分野の研究はまだ少ない。本発表は、動機づけという心理的要因を研究対象とするために、心理学の包括的理論である「自己決定理論」(Self-Determination Theory)を枠組みとして発表者が行った実証的研究を扱う。授業は時間的にかなりの部分を教科書での学習が占めていると学習者は認識している(Slivensky 1996)ことから、本発表は、特に、動機づけに影響しうる要因として、コミュニケーション中心の教科書に対する学習者の認知と動機づけとの関連を探ることを目的とする。時間が許せば、現在日本の大学で広く使用されている教科書の分析についても言及する。


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    第85回例会

    日時:2014年12月13日(土)13:30 ~ 17:30
    場所:キャンパスプラザ京都6階 立命館大学サテライト講習室(第1講習室)

    <<内容>>

    研究発表会

    司会者:筒井 友弥 氏(京都外国語大学)

    研究発表1

    発表者:佐藤 恵 氏(学習院大学大学院生)

    題目:「上からの言語変化」と「下からの言語変化」― 2格支配の前置詞の成立史を例にして


    [発表要旨]

     今日2格支配とされる前置詞には、紆余曲折の歴史がある。発表者自身の「散文コーパス1520-1870」(書籍156冊)に基づく分析によれば、wegenとwährendは、18世紀の経過の中で3格が本来の2格と拮抗するまでに至ったにもかかわらず、1800年を境に3格が一気に激減し、2格が圧倒する。Labov (1994) の言語変化モデルに依拠すると、18世紀における3格の増加は「下からの変化」、19世紀における2格の圧倒は文法家Adelung (1781) に起因する「上からの変化」と説明することができる。この「上からの」2格化ゆえに、本来は3格支配のtrotzも19世紀の経過の中で次第に2格支配にシフトしていったのである。



    研究発表2

    発表者:吉村 淳一 氏(滋賀県立大学)

    題目:『ニーベルンゲンの歌』におけるdesの韻律上の役割について 


    [発表要旨]

     中世英雄叙事詩の『ニーベルンゲンの歌』において、いわゆる「2格目的語」が539例ほど確認でき、そのうち名詞の2格は176例、指示代名詞(あるいは関係代名詞)の2格desはその数を上回り 217例も見られる。また、desはそのような用例だけではなく、代名詞的副詞、定冠詞としても使用されているが、代名詞のdesは前行(Anvers)や後行(Abvers)の行頭で、冠詞のdesは後行の行頭で非常に高い頻度で使用されている。本発表ではこのような傾向がこの作品特有のものであるのかどうかを確かめるために他の叙事詩と比較しながら、この作品においてdesが果たす韻律上の役割についてより詳細に考察したい。



    研究発表3

    発表者:宮下 博幸 氏(関西学院大学)

    題目:接頭辞・不変化詞überを伴う動詞における意味変種の実現について 


    [発表要旨]

     動詞接頭辞・不変化詞のüber は、伝統的なドイツ文法研究では特に形態論的な観点からその意味的分類がなされてきた。また近年 über は認知言語学の立場に立つ研究者によっても頻繁に注目されてきた。本発表ではこれらの研究を概観した後、接頭辞・不変化詞動詞において、複数の意味変種のうちの一つがどのように立ち表れてくるのかという問題を取り上げる。その際、各々の意味変種が接頭辞・不変化詞の意味と、基本動詞の持つ意味との相互作用によって実現されるという立場から考察を進めたい。この立場から基本動詞のタイプと意味変種との相関関係の一端を明らかにし、さらに分析の中で接頭辞動詞と不変化詞動詞の相違の問題にも言及してみたい。


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    第86回例会

    日時:2015年5月16日(土)13:30 ~ 17:00
    場所:キャンパスプラザ京都6階 京都大学サテライト講習室(第8講習室)

    <<内容>>

    研究発表会

    研究発表

    司会者:島 憲男 氏(京都産業大学)

    発表者:大薗 正彦 氏(静岡大学)

    題目:構文の適用可能性 ―日独語の好まれる事態把握との関連において―


    [発表要旨]

     本発表では,次に挙げるようなドイツ語の結果構文とbekommen受動を出発点とし,日本語の類似する構文と対照しながら,1. 言語によって構文の適用可能性――つまり,特定の構文がどのような状況の表現にまで適用され得るのか――が異なること,2. しかしながらその相違は言語全体の体系の中で十分に動機づけられていると見なすことができる,という二点を述べる。
       (1) a. Hans hat den Boden kaputt getanzt.
         b. *太郎は床をボロボロに踊った。
       (2) a. *Hans hat den Apfel gegessen bekommen.
         b. 太郎はリンゴを食べてもらった。
         c. 太郎はリンゴを食べられた。
    一見関わりのなさそうな両構文であるが,両者とも基本的に「人」を主語とする構文であり,「人」と「事象」が言語レベルでどのように関連づけられるのかという点において興味深い視点を提供するものである。


    第33回言語学リレー講義

    司会者:金子 哲太 氏(京都外国語大学)

    講師:武市 修 氏(関西大学名誉教授)

    題目:中高ドイツ語叙事文学の表現技法 


    [発表要旨]

     言語は常に変容するものであるが、ドイツ語は8世紀半ば頃ゲルマン語派の中から英語などとはっきりと分かれ始め、それ以来ほぼ300年の周期で大きな変化を経て今日の形になってきたと言われる。最初期の古高ドイツ語期は、主として福音書などキリスト教の文献をラテン語などから翻訳することが中心であった。やがて騎士による騎士のための世俗の文学が宮廷で花開く。フランス文学に範を取る脚韻文学の時代で、詩人たちは詩行のリズムを整え行末で押韻するという制約の中で簡潔に美的世界を描出することに心血を注いだ。中高ドイツ語と呼ばれる当時の言語はそれによって大いに洗練された。
     本発表では、当時の脚韻文学の言語的特徴を、時に今日のドイツ語との関連を見ながら、tuon (nhd. tun)の代動詞用法を中心とした迂言表現(=言い換え表現)と縮約形を中心としたさまざまな語形および否定表現の三つの観点から紹介したい。



    定例総会



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    第87回例会

    日時:2015年9月19日(土) 13:30 ~ 17:30
    場所:キャンパスプラザ京都6階 立命館大学サテライト講習室(第1講習室)

    <<内容>>

    研究発表会

    1.研究発表

    司会者:薦田 奈美 氏(京都大学非常勤)

    発表者:上村 昂史氏(同志社大学非常勤)

    題目:バイエルン方言における複数1人称代名詞
    ―動詞活用語尾との交替について―


    [発表要旨]

     バイエルン方言 (Bairisch) が話されている地域の一部では、複数1人称代名詞mia の縮約形ma (以下:MA語尾)が、本来の複数1人称における動詞の活用語尾であるan (以下:AN語尾)の肩代わりに使用されるという事例が報告されている。本研究は、現時点における当該現象の実態について記述するものである。調査では、バイエルン方言圏に居住する若年層話者の話し言葉に着目し、当該の事例についてアンケートを行った。本発表では、先行研究における記述を概観し、調査の概要および結果について見た後、MA語尾とAN語尾の使用が拮抗している点を指摘する。最後に、その使用の拮抗について要因を探る。




    2.シンポジウム:
    アプリ教材の可能性―『シンプルドイツ語単語帳』を例として―


    司会者:田原 憲和 氏(立命館大学)

    <報告1>

    報告者:橋本 雄太 氏(京都大学大学院生)

    題目:導入(デモンストレーション)




    <報告2>

    報告者:柏倉 健介 氏(郁文堂営業部)

    題目:出版社の視点から ―現状の報告と企画の概要―


    [要旨]

     各出版社において、ドイツ語教科書とデジタル端末の連動がどの程度行われているのかを述べる。その上で、今回のアプリがどのような意図で企画され、実現したのかを明らかにしたい。その際には、本アプリの特徴となる、「既刊の教科書への《後付け》として生まれたアプリであること」「無料公開されていること」の2点に触れることとなる。紙とデジタルは単に対立するものではない。むしろ相互補完的に連動しながら、教材に込められた目的をより高いレベルで実現することができるのではないか――こうした視点から、アプリ教材について考察したい。




    <報告3>

    報告者:西尾 宇広 氏(京都大学非常勤)

    題目:教育者の視点から ―開発の経緯と目的―


    [要旨]

     『シンプルドイツ語単語帳』は、主に学生が正規の授業時間外に活用することを想定して開発された語彙習得アプリであり、学生により多くの学習機会を提供し、その自発的な学習をサポートすることを目的としている。現状ではまだメディア環境等の点で、大学の授業過程に直接アプリを組み込むことは難しいが、授業の補助的なツールとしてアプリを活用することは、学習者のみならず教育者の授業運営にとっても資するところが大きいと思われる。本発表では、大学の語学教育に携わる者の視点から、同アプリの開発経緯とその運用可能性について述べる。





    <報告4>

    報告者:寺澤 大奈 氏(京都大学非常勤)

    題目:学習者の視点から ―教育現場でのアンケートに基づく報告―


    [要旨]

     発表者が教鞭を取る大学を中心に、本年度の前期、複数の大学で『シンプルドイツ語単語帳』アプリを実際に学生に使用してもらった。そして学期終わりに使用頻度や使用感などについてアンケートを取り、回答を得た。本発表ではこのアンケート結果を集計・分析することによって、現段階で本アプリが、ひいてはアプリ教材一般がどのような受け取られ方をしているのかを報告したい。さらに、発表者がドイツ語を教えている語学学校の生徒に対する聞き取り調査の結果や、発表者が個人的に本アプリを使用してみて気づいた点などに関しても追加で報告する予定である。





    ディスカッション

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    第88回例会

    日時:2015年12月12日(土)13:30 ~ 17:00
    場所:キャンパスプラザ京都6階 京都大学サテライト講習室(第8講習室)

    <<内容>>

    研究発表会

    研究発表1

    司会者:吉村 淳一氏(滋賀県立大学)

    発表者:細川 裕史氏(阪南大学)

    題目:新聞における『第三帝国の言語』―キリスト教との類似性および話しことば性の観点から―


    [発表要旨]

     V.クレンペラーは、『第三帝国の言語』(1947)のなかで、ナチスによる熱狂的なことばづかいを「説教者」のことばに例えた。彼によれば、「第三帝国の言語」はキリスト教のことばを模倣したものであり、また一貫して「話しことば」だった。実際に、ヒトラーの演説を対象としたDube(2004)においては、キリスト教的な語彙の使用が頻繁にあったことが指摘されている。そこで、本発表では、ヒトラーが演説とならんでプロパガンダのための武器として重視した新聞を対象に、そこで使用されるキリスト教的な語彙の頻度を調査し、また印刷メディアである新聞にどの程度の「話しことば性」がみられるのかも考察する。



    研究発表2

    司会者:金子 哲太氏(京都外国語大学)

    発表者:長縄 寛氏(関西大学非常勤)

    題目:時、条件の従属接続詞sô, alsô, alsについて 


    [発表要旨]

     中高ドイツ語のalsôはsôに強調のalが付加されたものであり、本来„ganz so“「まったくそのように」の意の様態を表す副詞であった。そしてalsは語末のôが消滅したもので、これも本来はalsôと同義の副詞である。その一方でsôは古高ドイツ語期から„wie“「~のような」の意の様態を表す従属接続詞としても用いられていたが、一部にはここから„als“やwenn“の意で時や条件の従属接続詞へと発展した。中高ドイツ語期にはさらに、この機能がごく一部ではあるがalsô, alsへも引き継がれた。今日のalsは「~した時」という過去の一回的事象を表し、条件文の導入詞としてはwennを用いるが、中高ドイツ語でまだこのような区別は明確ではない。本発表では「ニーベルンゲンの歌」「イーヴァイン」「パルツィヴァール」の三作品に見られるsô, alsô, als構文を取り上げ、今日の用法とどう違うのか、また今日の用法に至る萌芽が見られないか検討したい。



    研究発表3

    司会者:岡部 亜美氏(京都大学大学院)

    発表者:成田 節氏(東京外国語大学)

    題目:ドイツ語のPassiv ―日本語の受身と比べると― 


    [発表要旨]

     日独語の受動文に関する記述を基に、日本語の受影受動文のように主語の立場から事態を捉え、事態から受ける被影響感を表すことを中心的な働き とするような受動文がドイツ語にはないという考えを提示する。その論拠として、ドイツ語と日本語の受動文における主語の有情性の違い、および ドイツ語のvon-動作主と日本語の二格動作主の性質(被影響感をもたらす行為者性)の違いを挙げる。事例研究として日本語の小説から1人称 主語の受動文を取り出し、ドイツ語訳の対応箇所で1人称代名詞を目的語とする能動文が多く見られることを指摘し、被影響の観点からその原因を考察する。


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    第89回例会

    日時:2016年6月4日(土)13:30 ~ 17:30
    場所:キャンパスプラザ京都6階 立命館大学サテライト講習室(第1講習室)

    <<内容>>

    研究発表会

    研究発表

    司会者:島 憲男 氏(京都産業大学)

    発表者:納谷 昌宏 氏(愛知教育大学)

    題目:機能動詞構造の生成 ―LCSに基づく分析―


    [発表要旨]

     次の文1aは基礎動詞、文1bは機能動詞構造を用いた文である。
       1a Er verwendet das Geld.
       1b Das Geld findet Verwendung.
     
     1b のような機能動詞構造は何のために存在するのだろうか。どのような統語タイプがあるのだろうか。そしてそれらはどのような表現機能を有しているのだろうか。本発表ではこうした機能動詞構造の基本的な特徴を明らかにし、さらに如何なるメカニズムに基づいて、基礎動詞から機能動詞構造が生成されるのかを明らかにする。その際LCS(Lexical Conceptual Structure=語彙概念構造)を用いて生成メカニズムを分析する。LCSは動詞の意味を抽象的な術語概念を用いて表示したものであるが、今回の発表ではLCSの抽出や融合によって、さまざまなタイプの機能動詞構造が生成されることを明らかにしたいと考えている。


    第34回言語学リレー講義

    司会者:島 憲男 氏(京都産業大学)

    講師:在間 進 氏(東京外国語大学名誉教授)

    題目:ドイツ語研究の問題点とそれを越える一つの試み


    [発表要旨]

     まず、①分析の「最終目標」、②その「実在性」、③その「証明可能性」、④論述における「自然言語」の使用の4点に関する私の「否定的な」考察を述べ、次に、そのような問題点を越える一つの試みとして、現在、①ドイツ語使用の根底には「一定の規則性」が「可変的」な形で実在している、②その「可変的規則性」は使用頻度の中に反映される、③これらの点を分析の基盤にし、「実用的応用」を目標にするならば、「ドイツ語使用頻度分析」は十分に意義ある研究になると考え、④言語データ分析の技術的可能性を試みつつ、⑤使用頻度分析に基づくドイツ語分析と記述を行っていることを、いくつか具体例とともに、報告します。



    定例総会



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    第90回例会

    日時:2016年9月17日(土)13:30 ~ 17:30
    場所:キャンパスプラザ京都6階 京都大学サテライト講習室(第8講習室)

    <<内容>>

    研究発表会

    司会者:筒井 友弥 氏(京都外国語大学)

    研究発表1

    発表者:渡辺 伸治 氏(大阪大学)

    題目:gehen/kommenとgo/come


    [発表要旨]

     本発表では、ドイツ語のgehen/kommenと英語のgo/comeのダイクシス性の違いを考察する。その際、使用条件に関するダイクシスと状況に関するダイクシスを区別するが、本稿では使用条件に関するダイクシスにもとづき考察する。gehen/kommen、go/comeはいくつかの用法に分類するが、使用条件に関するダイクシスがどの用法にどのように見られるかを比較、考察し、結論として、基本的に英語のgo/comeのほうがダイクシス性が強いことを述べる。また、できればgehen/kommenとgo/comeのダイクシス性の違いを歴史的な観点からも考察したいと思っている。


    研究発表2

    発表者:木村 英莉子 氏(京都大学大学院生)

    題目:wissenを含む言語表現による談話標識の機能について―weißt duを中心に


    [発表要旨]

     日常会話におけるコミュニケーションの中で、話し手は聞き手に反応を要求するために、様々な言語表現を使用している。weißt du、weißt du wasなどのwissenを用いた談話標識はこの一種であるが、その機能、また、他の言語表現との関連性については明らかになっていない点も多い。本発表では、wissenを用いた談話標識について、これらがどのような場面に出現するのか、また、反応要求を行うためにどのように機能し、相互行為の中で話し手から聞き手へどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることを目標に置く。会話分析の手法を用い、ターンにおける出現位置毎に考察を行い、wissenを用いた談話標識の特徴について考察する。


    第35回言語学リレー講義

    講師:吉田 光演 氏(広島大学)

    題目:生成文法と形式意味論から見る構造と意味のインターフェース
    ―ドイツ語定冠詞を中心に―


    [発表要旨]

     生成文法は統語構造の自律性を仮定するが、作用域解釈など、構造と意味が関連する論理形式レベルを認めている。これを進めて、生成文法と形式意味論を結合して、構造と意味のインターフェースを研究する方向はドイツ語研究においても有力である。これを踏まえて、定冠詞の構造(限定詞句)と意味(唯一性・既知性)を取り上げ、im, zumのような前置詞と定冠詞の融合形の意味について議論する。先行研究では、融合形は弱定名詞句として、指示性が弱い不定名詞句と分析されることもあるが、共有知識との関連において定解釈となる場合もある。非融合形との対比、名詞の種類、状況・文脈など、語用論を含む動的な分析が必要であることを示す。

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    第91回例会

    日時:2016年12月17日(土)13:30 ~ 17:00
    場所:キャンパスプラザ京都6階 京都大学サテライト講習室(第8講習室)

    <<内容>>

    研究発表会

    司会者:金子 哲太 氏(京都外国語大学)

    研究発表1

    発表者:安田 麗 氏(大阪大学)

    題目:語末閉鎖子音の発音について
    ―ドイツ語と英語の音声的類似語を対象にした生成実験の報告―


    [発表要旨]

     ドイツ語では語末にある有声閉鎖子音/b//d//g/は,無声閉鎖子音として発音される。したがって、Badとbatはともに[ba:t]、wegとWeckはともに[vɛk]となり、原則として両者は同じ発音になる。このような音韻規則は英語にはなく、英語のbad [bǽd]とbat [bǽt]、wig[wıg]とwick[wık]の発音はそれぞれ語末閉鎖子音の有声・無声の対立を成している。このように英語とドイツ語の音韻規則には違いがあるが、日本人ドイツ語学習者の多くは中等教育過程においてすでに英語を学習し、その後ドイツ語の学習を始めるため、ドイツ語の発音においても英語の影響が見られる可能性が考えられる。そこで日本人ドイツ語学習者のドイツ語の発音では実際に語末閉鎖子音をどのように発音しているのかを生成実験を行い調べた。


    研究発表2

    発表者:岡部 亜美 氏 氏(京都大学大学院生)

    題目:ドイツ語とオランダ語の所在動詞の体系的比較
    ―liegen/liggen, stehen/staan, sitzen/zittenを対象に―


    [発表要旨]

     ドイツ語とオランダ語は、複数の動詞を使い分けて物体の所在を表現する。このとき用いられる一群の動詞を所在動詞と呼ぶが、これら所在動詞の中で特に中心的な位置を占めるのが(de) liegen/ (nl) liggen, (de) stehen/ (nl) staan, (de) sitzen/ (nl) zittenである。本発表はこれら3種の動詞を対象に、ドイツ語とオランダ語における所在動詞の用法の差異を明らかにしようとするものである。研究手法としてはアンケートを用い、物体間の位置関係を記述する場合と、物体と人間(身体の一部)の位置関係を記述する場合の二つを分けて調査を行った。この際、(de) sitzen/ (nl) zittenの振る舞いにおいて、両言語は顕著な違いがあることが予想される。また調査結果は、所在動詞体系の中で論じる必要があることも指摘したい。


    研究発表3

    発表者:小川 敦 氏(大阪大学)

    題目:ルクセンブルクにおけるドイツ語識字教育の問題点と施策


    [発表要旨]

     ルクセンブルクでは、幼児教育にはルクセンブルク語が用いられるが、初等教育ではルクセンブルク語が第一言語であることを前提としてドイツ語で識字が行われる。また、教育の媒介言語もドイツ語である。フランス語教育は小学校2年生から導入される。一方、移民は増え続け、現在、人口約57万人のうちの47%、約27万人が外国籍である。それにともないルクセンブルク語が第一言語という前提は大きく崩れ、ドイツ語による識字教育には大きな疑問が投げかけられている。ドイツ語教育が社会階層の再生産や固定化を促し、機会均等を奪っていることも指摘される。本発表では、ルクセンブルクの言語教育の問題点を指摘した上で、現在とられている施策や現場での工夫を紹介する。特に、2013年末の政権交代後の施策や展望についても考えたい。

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    第92回例会(30周年記念コロキウム)

    日時:2017年5月20日(土)13:30 ~ 17:30
    場所:キャンパスプラザ京都2階 第1会議室

    <<内容>>

    「ドイツ語研究の今後」
    ―「京都ドイツ語学研究会」発足30周年を記念して―

    司会者:河崎 靖 氏(京都大学)



    1. パネリストからの提言

    題目:ドイツ語研究における『分かりやすさ』と出現頻度
    ―lassen使役構文の分析を手掛かりに―

    パネリスト:湯淺 英男 氏(神戸大学)



    題目:J.Wickram „Das Rollwagenbüchlin“におけるmöchteについて
    ―ルター、英語、目的文などと関連させて―

    パネリスト:工藤 康弘 氏(関西大学)



    題目:『する型・なる型』表現類型から見たドイツ語とルクセンブルク語

    パネリスト:田村 建一 氏(愛知教育大学)



    題目:当たり前のようで意外なこと―『外』から見た語学研究・語学教育―

    パネリスト:坂口 文則 氏(福井大学)




    2. ディスカッション

    [コロキウム要旨]

     京都ドイツ語学研究会は、昭和61年(1986年)12月13日に5名の発起人のもと発足会が開催され、研究会設立の趣旨説明および会則の承認、そして初代世話人の選出をもって正式に誕生いたしました。

    ○本会はドイツ語学・ドイツ語教育およびこれらに関連する領域の研究に携わるものが、相互の研究交流を深めることによって、それぞれの研究の充実を目指すとともに、相互の親睦をはかるものとする。
    ○本会はドイツ語学・ドイツ語教育およびこれらに関連する領域に関心をもつ研究者・大学院生等をもってその会員とする。

    この会則に謳われているように、本研究会の目的は『相互の研究交流』による『それぞれの研究の充実』および『相互の親睦』となっています。『相互の研究交流』は主として年3回の例会〈研究発表会〉と年1回発行の会誌Sprachwissenschaft Kyotoによっておこなわれています。例会では毎回2~3名の方の発表があり、発表後の討論は長時間にわたることも稀ではありません。これまでの例会で発表されたテーマを見ますと、ドイツ語学の分野では統語論、意味論、語用論を中心に、伝統文法から比較言語学、生成文法、ヴァレンツ理論、テクスト言語学、モンタギュー文法など多岐にわたっています。最近ではドイツ語だけでなく他の言語に関する研究もさかんになっています。また、ドイツ語教育に関しては、会員それぞれの教育実践報告だけでなく、とくに1991年の『大学設置基準の大綱化』以降、日本におけるドイツ語教育が経験した大きな変革の中で、大学などでのドイツ語教育がどうあるべきか、ということもしばしば議論されてきました。会誌Sprachwissenschaft Kyotoは、会員のみなさんの研究発表の場として毎号多数の掲載依頼があり、編集委員会(世話人会)で会員あるいは会員以外から査読委員を選出し、厳正な審査のうえ論文として掲載しています。
     一方、『相互の親睦』を実現できる場としては例会後の懇親会があげられるでしょう。初代世話人代表・西本美彦氏は次のように書いておられます。「懇親会とはいえ、実際にはこの場で腹を割った議論が展開されます。議論はドイツ語学ばかりではなく、言語学一般にまで及び、特に若い研究者にとっては、ある分野の代表的な研究者と直接意見交換や情報交換ができる貴重な場であり、欠かせない活動の一つと言えるかもしれません。」発足当初22名であった会員数は、この30年で約100名と増加しています。その理由のひとつとして会員相互の親睦を大切にしてきたことが挙げられるかもしれません。
     こうした研究会30年にわたる活動全般を踏まえて、今回の記念コロキウムでは今後のドイツ語研究をどのように展開していくべきか、という観点で4名の方々にお話しいただきます。4名の方々の発表ののち、会場にお集まりのみなさまを交えて今回のテーマである『ドイツ語研究の今後』について話し合いたいと思います。実り豊かで活発な議論を期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。



    定例総会



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    第93回例会

    日時:2017年9月16日(土)13:30 ~ 17:00
    場所:キャンパスプラザ京都6階 京都外国語大学サテライト講習室(第4講習室)

    <<内容>>

    研究発表会

    司会者:吉村 淳一 氏(滋賀県立大学)

    研究発表1

    発表者:大喜 祐太 氏(三重大学)

    題目:存在表現の意味を決定する要因


    [発表要旨]

     本研究では、何らかの事物の存在について言及する存在表現に着目する。なぜなら、多くの言語が存在を言及する特定の表現を備えており、日常的な言語使用の場では、ある一つの表現に対して多様な用法を観察できるからである。そうした存在表現の意味解釈には、複数の形式的・意味的要因が絡み合っており、そのうえ、発話状況に依存して語彙や構文の使用の適切さに違いが見られる。本発表では、コーパスから抽出した用例を示しつつ、語彙の多様性と多義性、語用論的曖昧性などの概念を足がかりにして、ドイツ語存在表現の用法について考察する。


    研究発表2

    発表者:西野 由起江 氏(大阪大学大学院生)

    題目:日本の主婦層向けテレビ番組の談話の考察
    ―ドイツの料理番組との比較から見えるもの―


    [発表要旨]

     主婦層を視聴対象とする日本のテレビ番組は、主婦向けという設定された枠組の中で主婦に役立つ情報を集め、番組内の談話行動を通して性別役割についての規範を明示的・暗示的に再生産している可能性があると考えられる。主婦という語の意味を形成し、語によって想起される規範はテレビの談話行動を通して伝えられ、前提として社会で共有されているのではないだろうか。本発表では、日本の主婦向けテレビ番組の談話行動とドイツの料理番組の談話行動を比較し、料理作りの談話行動から観察される性別役割についての考察を行い、料理作りというゴールが同じであっても、プロセスに見られるそれぞれの談話行動に見え隠れする規範に相違があることを例示する。


    研究発表3

    発表者:中村 直子 氏(大阪府立大学)

    題目:名詞を第一構成要素としてもつ現在分詞
    ―一語書きされる名詞-動詞結合のひとつのバリエーションとして―


    [発表要旨]

     名詞-動詞結合の不変化詞動詞の用例を収集する際に、見過ごすことができないのが、名詞-現在分詞の結合をもつものである。一見したところ、名詞-動詞結合の不変化詞動詞における名詞と動詞の結びつきと似ているので目につくのだが、用例を見ていくと、少々異なった様相を持つところもある。今回は、扱う対象を、名詞-現在分詞の結合に限定して、名詞と(動詞の一形態である)現在分詞の結びつきについて考察する。これもまた、一語書き・分かち書きの境界領域にあるカテゴリーであるため、名詞-動詞結合における一語書き・分かち書きの考察のためのひとつのケーススタディとしたい。

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    第94回例会

    日時:2017年12月16日(土)13:30 ~ 17:00
    場所:京都大学楽友会館(1階会議室)

    <<内容>>

    研究発表会

    司会者:筒井 氏(京都外国語大学)

    研究発表1

    発表者:黒沢 宏和 氏(近畿大学)

    題目:古高ドイツ語の時称文における法の用法
    ―条件文・関係文との比較に基づいて―


    [発表要旨]

     古高ドイツ語においては、現代ドイツ語に比べ、接続法が頻繁に用いられる。この現象は特に副文において顕著である。従来、この副文中の接続法は、主文から副文への影響によると解釈されてきたが、この見解には議論の余地が残されている。
     本発表では、古高ドイツ語『タツィアーン』を考察の対象とし、古高ドイツ語の時称文に接続法が現れる場合と直説法が現れる場合に、表現内容にどのような差異が生み出されるのかを、意味論的な観点から明らかにする。
     発表者は近年『タツィアーン』の条件文と関係文における接続法を扱ったが、条件文・関係文と時称文との間で、どのような違いがあるのかを解明し、時称文の特性を可能な限り浮き彫りにしたい。


    研究発表2

    Frau Pinnau-Sato, Heike(京都外国語大学)

    題目:Bedrohung oder Bereicherung für die deutsche Sprache - Anglizismen quo vadis?


    [発表要旨]

     Am Thema Anglizismen scheiden sich die Geister. Auf der einen Seite empfinden Sprachkritiker einen großen Teil davon überflüssig und sehen im stetigen Anwachsen dieser eine Verdrängung des deutschen Wortschatzes oder sogar eine Bedrohung für die deutsche Sprache an sich. Auf der anderen Seite beschwichtigen Sprachwissenschaftler oder Experten aus anderen Fachbereichen und sprechen anstatt von einer Gefahr von einer Bereicherung für das Deutsche. Vor diesem Hintergrund wird in der diesmaligen Studie der aktuelle Gebrauch von Anglizismen analysiert.


    研究発表3

    発表者:藤縄 康弘 氏(東京外国語大学)

    題目:複合判断・単独判断とドイツ語統語論


    [発表要旨]

     複合判断と単独判断(kategorisches vs. thetisches Urteil)はドイツ語圏スイスの哲学者 A. Marty に遡る論理学の範疇だが、言語学では Kuroda (1972) が日本語ハ・ガの分析に応用したことで知られている。本発表では「ハ=複合判断、ガ=単独判断」という彼の見方が Marty (1918) に鑑みて必ずしも適格でなく、この差異の本質が別にあることを確認した上で、それがドイツ語統語論にどう反映しているかを命令文・希求文と小節を例に考察する。帰結として、繋辞でも所在動詞でもあり得る sein の機能性がまさにこの判断の別に基づくことが明らかとなろう。

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    第95回例会

    日時:2018年5月19日(土)13:30 ~ 17:00
    場所:キャンパスプラザ京都6階 京都大学サテライト講習室(第8講習室)

    <<内容>>

    研究発表会

    司会者:湯浅 博章 氏

    研究発表1

    発表者:野村 幸宏 氏(甲南大学)

    題目:「経験上の知識」、Erfahrungswissenと授業改善スキルの習得
    Praxiserkundungsprojekt (PEP)


    [発表要旨]

     学習者のドイツ語による総合的なコミュニケーション能力の獲得を目標とした授業について、日本でも近年ようやく一定程度の理論と経験が蓄積されてきている。
     しかし、こうした知識と経験の伝達は容易ではなく、仮にそれができたとしても、実際の授業の場においては、必ずしも理論や他人の経験通りに機能するわけではない。最終的には、個々の教員が理論と自らの授業経験という二つの「知識のインプット」を消化・統合し、自らの授業に最適化された独自の「経験的理論知」を形成する必要がある。そのためのツールとして提唱されているのが、Praxiserkundungprojektであり、これは例えばGoethe-Institutの教員養成プログラムにおいても、重要視されている。本発表では、このPraxiserkundungsprojektの概要と具体例を紹介しながら、その意義について考えを深めたい。


    研究発表2

    発表者:大矢 俊明 氏(筑波大学)

    題目:状態受動とテアル構文


    [発表要旨]

     ドイツ語の状態受動と日本語のテアル構文は、ともに動作主主語の生起を許さず、先行する出来事の結果状態をあらわす。

    (1) a. Das Fenster ist (*von Hans) geschlossen.
      b. 窓が(*太郎によって)閉めてある。

    本発表では、まず1) 状態受動とテアル構文の共通点と相違点を概観し、2) 高見 (2017)がテアル構文にみられる「日本語らしさ」と見なしている「話し手の関与」は状態受動にも観察できることを指摘し、さらに3) テアル構文にみられる(真の?)「日本語らしさ」について考察する。


    定例総会

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