俳句 毎月の三句S

短歌俳句月刊誌「歌会」(松平吉生先生主催  2002年3月第66号をもって終刊)への毎月の投稿句からの三句

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2002/03/20
三月のからすのふかきのどの奥
名を問へばラフと答へし春の犬
鉄棒にぶらさがりふらここでゐる

2002/02/20
やさしみのひとしづくうく梅の花
心のこり菠薐草の紅ほどの
想像の代はりに水菜浮いてゐる

2002/01/20
おちよぼ口すするデミタス冬終る
ながいながいベンチの端にて冬送る
カプチーノすくふゆびさき春となり

2001/12/20
天動を説くや今夜も星の冴ゆ
ねむる山むかふに星のおつる音
冬銀河わたる少年の背に鱗

2001/11/20
白菜の白より白くとも眠る
寝具より抜けてセータに潜る朝
大根の四本並びし露天風呂

2001/10/22
はぢらひの耳より紅き毒茸
とひかけに肯きひとつ青蜜柑
さるのこしかけだけのこしともはさる

2001/09/20
ひだりむね深さ2センチにとどく秋
ぽつかりと一年ぶりに月のゆめ
けふもまたソファで死んでゐる秋刀魚

2001/07/20
誰を待つテーブル・クロス夏の宵
レンタ・カー戦場跡の冷夏かな
オートバイ傾いで夏の山倒る

2001/06/20
唇を苺と訳すナスターシャ
丘といふやすらぎ被る夏帽子
たましひもどんぶらこつこ夏の川

2001/05/20
マロニエの花のあかるさ空ひらく
デモよそに江戸の映し絵初夏の宵
流鏑馬をハイド・パークで見るMatsuri

2001/04/20
てをうつてそのてをうへに朧月
ぶらんこの児らのつまさき夢蕾
しあはせは目を閉じて追ふ石鹸玉

2001/03/20
とまれともすすめとも思ふ春の刻(とき)
きのふ名を聞けばけふ見る黄水仙
まなざしを添はせて互ひ思ふ雛

2001/02/20
春浅しこきこおひいのゆるきゆげ
あはれしる二月のあさのもやのうち
おれんぢに泣くかべ春のひかりうけ

2001/01/20
振り出しに戻り始める新千年
腹三つならべてよじり初笑
ガラス絵の影に春待つ心あり

2000/12/20
白菜を買ひたし部屋に土鍋なし
SATSUMASの名が目に留まり蜜柑買ふ
石の街に明治を探す漱石忌

2000/11/20
新しきレンジにも慣れ馬鈴薯チン
時雨闇爪切る響き壁の白
冬近し椅子は十脚尻一つ

2000/10/20
昼の星はらはら振りて秋の蝶
ちぎり捨てた写真の行方うろこ雲
電池切れ犬正座する秋の暮

2000/09/20
朝墓を洗ふ父の背流す夜
還る女男は吠えて月を待つ
母の嘘妻も吐くなり虫時雨

2000/07/20
空を裂く雷(らい)またそれを呑む大地
足音の聞こえる午後の冷索麺
眠れずに眠れずに冷蔵庫抱く

2000/06/20
ギター弾く男女は枇杷を剥く
明滅のことばの行方ほたる蛍
揺れ方を揺れて覚える今年竹

2000/05/20
青葉潮打ち上げられし耳幾千
海に溶ける青さの蛇を跨ぎけり
跳ぶ決意動かぬ勇気青蛙

2000/04/20
揺れながら名前刻まん花デイゴ
寄居虫といふ問い方や離れ島
沖縄のみやげ水雲と記憶力

2000/03/20
少年の我と行き交ふ春の闇
風光る少女のこぶし窓たたく
覚めてなほ寝そべつてをり春の山

2000/02/20
豆打てば痛いと云ひし真闇かな
上達の子にあふられて直滑降
オッフェンバック揺れてゐる水菜煮えてゐる

2000/01/20
子らよそに手刀乱舞の歌留多会
筆始大願成就迄一歩
男生き女生き抜く阪神忌

1999/12/20
落葉降る古い記憶の井戸の底
枯木立ぎつたんばつこん鴉二羽
真夜中の四十男の汁粉椀

1999/11/20
木漏れ日の酸いも甘いも檸檬れもん
器にもオペラの余韻菊膾
転校生抱かれて泣く神無月

1999/10/20
エプロンの紐をほどいて月を待つ
炭一本食べて分かつた秋刀魚かな
過ちをひとりで笑ひ梨を剥く

1999/09/20
原爆忌その二日後のサダコ像
傾斜地のみどりをすいと赤とんぼ
海の彼方八月の空ソファー買ふ

1999/07/20
出張の夜のくつろぎ冷奴
銀と呼びし金魚の白き腹かなし
かなぶんの飛びゆく空のかたさかな

1999/06/20
草むしり後ろで骨の折れる音
皮を脱ぐ竹竹笑ふほかになし
父の日の水清ければ父棲まず

1999/05/20
山辺の道に青梅三つ拾ふ
肉色といふオランダ語カーネーション
ミミデミルミドリミシエルポルナレフ

1999/04/20
春疾風ペダルの岩となる2秒
ちるさくら女ほほばるゆで卵
右に少し傾く少女チューリップ

1999/03/20
春雨の地鎮祭なり不惑なり
虹消ゆれば親子で春の坂のぼる
幸せを川面にうつす揚雲雀

1999/02/20
陽の眠る墨の天(そら)より白き雪
夕食はあなたといはれ水菜買ふ
今朝はけさ明日にはあすの淡き春

1999/01/17
元日の遠い記憶の日差しかな
襞襞の壁音を吸ふさむさかな
寒鴉そっぽの先に未来あり

1998/12/24
ひとり聴くぷーんのふるへ冬の蠅
半丁の真夜の湯豆腐箸二膳
ひとりしか渡れぬ冬の虹かかる

1998/11/16
石榴の実いたいと声に出してみる
落花生歯につめて歯につめて酔ふ
両の手をソファにもぐらす夜寒かな

1998/10/19
平安の昔も裂くる野分かな
ふるさとは森を出でくる丸い月
秋草に物語りせる少女かな

1998/09/16
蝉の数かぞへて放つ空青し
床に落ちのたうつ金魚盆の月
鈴虫の声の波こえ夜に出づ

1998/07/20
夏座敷ころがす卵二つ三つ
夏の夜ひとり卵を眺めをり
胸の上卵をのせて夜を涼み

1998/06/20
読書する少女の背中扇風機
幸せのお裾分けあり夏暖簾
古団扇あふげば去年の宵きたる

1998/05/20
腰浮かし踏み込むペダル夏兆す
フランスの芸人空舞ひ聖五月
母の日に父と子で見る大道芸

1998/04/20
ここにいてそこにいる春掛け鏡
てふてふと空になぞりて春うらら
山に来て桜恐れぬ女あり

1998/03/20
京都駅斜めにのぼり春に逢ふ
妻の手のぬくもりひらく桃の花
人に会ひ人が変はりて春二つ

1998/02/20
夫婦連れ売り土地に立てば猛吹雪
舞ふ雪のかなたさす児の赤い指
土の香を嗅ぐ真昼間に犬となり

1998/01/17
文字(もんじ)より数字の多き賀状かな
初夢は餅のふくらみマイホーム
凍空のいま玻璃のごと輝けり

1997/12/20
木がらしや鹿三頭の尻すぼむ
三千の冬のつぶやき博物館
冬の水月曜映すな映すなよ

1997/11/15
悲しみはかたい物質胡桃割る
紅葉焚く男は女の影にすぎず
白菊のかげにかの世の微光あり

1997/10/20
よりかかる柱求めし秋の宿
ガラス窓気づきもさせぬ秋の空
赤き犬笑ひて去りぬ秋の昼

1997/09/19
ハワイアンソング空に溶け八月尽
のこる蝉沖のサーファー波待てり
ベランダよりハト飛び立ちて秋の虹

1997/07/19
車輪灼く炎天交通科学館
ランナーの孤独を冷ませ夏木立
アンテナの群れ飛び立つや夏の宵

1997/06/20
早乙女の背やたましひの湯気のぼる
水無月や犬の背越しにながむ雨
夏の宵なわとぶ靴のうら白し

1997/05/20
夏 SHIFT SPACE 変換 春を DEL
夏に入るこの夜を高画質録画
五月の夜下がりし吾子の前歯抜く

1997/04/22
揺れ残るブランコ児らの遠き声
花過ぎの薄日にグラスかざしみる
妻の背に背中を合はせ春惜しむ

1997/03/21
淡々と恋して語らぬお雛さま
妖怪も恋をしそうな朧かな
春日欠けて娘は「ホント月出てる」

1997/02/21
少年は春の訪れ凧に訊く
ひと月もあたためきれず二月の句
ほころびし人形の背や二月尽

1997/01/17
ホットチョコ降らざる雪を映す窓
鳴きペダル漕ぐやはるかに雪は降る
雪なめる我少年の我に会ふ

1996/12/24
ふりむけば西窓走る冬の影
冬日あびて床に横たふ電池鳥
白い息黒い波呑むルミナリエ

1996/11/16
霧の中ラバーソウルで知る紅葉
紅葉おろし過ぎてくぐれぬ菊の門
父母未生以前を見るか菊人形

1996/10/16
月がありビルがまっすぐに立っている
すすすすと月とどまらずめぐりゆく
のりこして月夜の駅に降りたてり

1996/09/18
帯のごと慶州(キョンジュ)をむすぶ天の川
唐辛子畑の中に仏塔見ゆ
真夜中のソウルの屋台で夏を灼く

1996/07/16
花茣蓙にしたたかな脚白い風
身をそらしみみずもあふぐ空の橋
追いついてかぶせるタオル親はだか

1996/06/17
缶ビール女がポケットさぐる夜
五月闇もそりと毛虫道わたる
富雄川ひた走らせる五月雨


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